幕間『日本国筆頭選別官』


「・・・・・・・・・はぁ~・・・っ!」


 ジャッジは、周囲に人がいないことを確認すると、被っていたヘルメットを外し、深い溜め息をついた。


 フィンへの尋問と情報共有の会は、22時を回った頃に終わった。

 つまり、このジャッジと名乗った人物の・・・実のところ堅苦しいのが全く得意ではない人物にとっての辛い辛い時間が、2時間以上続いたのだ。


 自販機で買ってきた炭酸ジュースを飲むと、ようやく肩の力が抜けてくる。

 そして自分のこれからを考え、再び憂鬱な気持ちになる。


「これから毎回、あれで接するのか・・・?」

「まぁそうだろうねえ」

「わんんんん・・・ッ!!!?!?」


 何の気配もなく近づいてきた声に心臓を大層刺激され、ジャッジは思わず叫びそうになった。

 そしてそれをかみ殺したせいで余計に珍妙な声を発した。


「ヴィ、ヴィヴィヴィ、ヴィーーーーックトルさん!!!

 足音出して近付いてきてくださいよ!!!」

「ははは、悪いね。面白いかなとおもってつい。面白かったよ。面白かったかい?」

「面白いワケねーでしょマジで・・・!

 はああ、もう・・・疲れましたよ俺は・・・!」

「自分でより疲れるような方法を選んじゃったでしょ君は」

「そりゃあ・・・そう、ですけど・・・」


 ジャッジは今回の集まりに参加する必要がなかった人間である。


 それでも参加をねじこんだのは、仕事上の理由が半分と、私情が半分。

 『私情の方は誰にも言わない』という条件でヴィクトルが許可した。


「しかし君も大変だね。

 シュウゾウの爺様じさまから役職を受け継いで間もないのにねえ。

 いきなり最初がこの案件でしょ」

「・・・別に、じーさんの跡を継いだのは俺が好きでやったことだし。

 面倒だけど、嫌じゃないっすから」

「そうか、ならいいけど」


 ヴィクトルも、持っていたコーヒー缶を開けてちびりと飲む。

 そしてジャッジを見て、またいたずらっぽい笑顔になる。


「しっかし、『ジャッジ』ねぇ。

 それ、彼への当てつけか何かなのかい?」

「あ、当てつけじゃねーっすよ!

 他にどう表現するかはよく分かんねえけど・・・!」

「ま、入れ込むのもほどほどにね。

 ていうか、むしろ逆に、さっさとズルして言っちゃえばいいのに。

 顔や素性に関しては、別に罰則があるような規則じゃないし」


 ジャッジは、立ち上がって空を見る。

 月は少しだけ欠けていたが、それでも充分に明るい。


「そこは、まぁ―――」


 ジャッジは―――ひとりのためにそう名乗ったそのは。

 今日とは違った夜を回想しながら・・・意識的にその言い回しを用いた。


 月の光が素顔を照らす。






「―――あとでいいよ、それは」




 


 日本国筆頭選別官―――真川さながわ春太郎しゅんたろう

 前任・真川秋蔵シュウゾウの孫にあたる少年である。


≪次章『踊る仮面の街』へ続く≫

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