第4章 -5『群体』
降ってきたイワシ型
微弱なパルスをパチパチと放ちながら、比喩でなく雨のようにデアに打ち付ける。
織火は甲板に落ちたものを十数匹は切り落としたが、数は増えるばかりだった。
「くそっ、広い場所にいたらやばいな・・・!」
「どうするの、オルカ!?」
「デアだけでも逃がすしかない・・・!
フィン、ブリッジに戻れ!飛ぶ準備しろ!」
「わ、分かった!」
フィンは、デッキに増設されたもうひとつの入り口からブリッジへと急ぐ。
その背中に海面から飛び出した個体が殺到するが、立ち塞がる織火がクロー斬撃でこれを散らす。
「させねえよ!」
「オルカ!大丈夫ですか!」
「ぼくたちもやるぞ!」
入れ替わりでデッキに上がってきたレオンとリネットが防衛に加わる。
レオンは装備が様変わりしていた。両腕にアンカーを装備、ハープーン発射機構が背中にマウントされている。より潜水時の機動性を高めるための改良だとドクターは言っていた。
ブリッジから通信。チャナとオリヴァー。
『飛行準備は間もなく整う、それまでにチームを分けるぞ』
「チームでありますか?」
『アイツら上から降ってきたしょ?
これですら本隊じゃないならマズイよ。
下に残る人数は最低限にしないと、不安が大きい』
「最小限の人数で落ちてきたコイツらを抑えろってことか」
『そういうこった。
リネットは上から射撃ができるからデアに残してぇところだ。
俺も残る。そしてオルカ、お前も上だ』
「俺も?」
織火は通常の場合、広い水面で高速機動を活かした囮役を務めることが多い。
今回も下でかく乱を担当すると思っていたが、予想が外れた。
『お前は、そこに見えてるラダーを走って登れ。
狭い水路に一定数を誘導し、リネットに狙撃させる』
ヘッドギアのバイザーに座標が転送される。
マウナ・ケアの浮遊島に行くには、火山を避けて一定距離を登るための水路、通称『ラダー』が設置されている。
ラダーは大型貨物船用のものから、個人レベルの小型艇が通るものまでいくつかのサイズがある。織火が指定されたのは、デアが幅いっぱいいっぱいで通れるサイズの中型水路だ。
「マウント・スプリントか・・・!
俺の専門じゃないけど、やってやる・・・!」
『レオン、チャナと下でこいつらを抑えろ。
ま、もちろん全滅でも構わねぇけどな』
「・・・了解であります!」
『よし・・・そんじゃァ、作戦開始!!』
「・・・フィン、準備はいいッスか?」
「だいじょうぶです!いつでもいけます!」
ノエミの呼びかけに返事をしたフィンは、水槽の中にいた。
水槽は、デア・ヴェントゥスに組み込まれた新たな動力炉・・・『ガーディアンズ・コア』の制御ユニットの役割を担っている。
「よぅし・・・!!やるッスよ!!
『ガーディアンモード』、
「・・・んんんんん・・・!!」
フィンを通して水槽が金色に輝き、そのエネルギーが船全体を駆け巡る。
同時に、大型に改造されたウィングが折り畳まれた状態から展開。
装甲に走る金色のライトラインはウィングの先端まで到達し、スリットから金色の光を放出し始める。
「・・・飛べぇ――――――ッ!!!」
―――噴射。
翼を得たデア・ヴェントゥスはゆっくりと水面を離れ、飛翔を開始する。
ほとばしる金色のパルスはバリアの役割を果たし、群がっていた巨魚の一部を消し飛ばした。
その一瞬のチャンスに、『エクルビス』に乗ったチャナが格納庫から出撃。
着水点にいた数匹をシザーアームで潰し、レオンと合流する。
そこに向かおうとする一群に、アームカノンの砲撃が飛ぶ。
明確な脅威を織火の方だと判断し、方向を変える
「よし、連れた・・・!ラダーに行くぞリネット!」
『了解。射程に入り次第、攻撃します」
波を蹴立てて迫る音を聞きながら、織火は加速を開始した。
「こっちもやるよ、レオン!」
「任務了解!!!」
「声でっか!
じゃあ、フィン!頼んだよ!・・・上でまた!」
『はい!チャナさんも気を付けて!』
返事の直後、翼の噴射が強まり、本格的に上昇が始まった。
デアが速度を上げていくのを見送り、レオンとチャナは背中を合わせる。
「・・・それで副隊長殿、この巨魚の詳細は?」
「さっき調べがついたよ。ドクターがいないから時間かかっちゃったわ」
レオンのヘッドギアに情報が転送されてくる。
「コイツらの名は〈ミリオナ・カウア〉。
―――群体型の
「群体型・・・確か、統率個体を持たない種のことでしたか?」
「勉強してるじゃん、その通り。
つまりコイツらは・・・一匹一匹、全部が上位種ってワケ」
巨魚が上位種と呼ばれる条件は、パルスを扱えることである。
一般に大きく強大であるため、上位種の一個体が群れを率いることは多い。
―――だが、上位種の全てが個体として優れているわけではない。
巨魚のパルス放出量は体躯の大きさに左右されるため、サイズの小さい上位種は、時として通常種にも劣る弱い力しか持たない。
こうした弱い種が身を守るために行うことは、自然界ではいつも同じだ。
集まり、身を寄せ、個ではなく全としての強さを追求する。
一匹において微弱なパルスを、何百と束ねることで強大なものとする。
それが、群体型の巨魚。
「しかもコイツらは、ただ群れるって話で終わらない。
だいぶ気が立ってきてるし、そろそろ―――始まるよ」
チャナがそう告げると、〈ミリオナ・カウア〉は動き始める。
一匹が十匹へ、ひとところに集まる。
十匹が百匹へ、さらにひとところに集まる。
百が五百へ、五百が千へ・・・あれだけ全方位に広がっていた群れが、今はふたりの眼前でバシャバシャとうごめいている。
はじめは一度・・・パチリと、パルスが流れた。
まるで雫が波紋を広げるように群れ全体がパルスを放つ。弱い光は目を焼くような光の集合となっていく。
そして―――ついにその変化は始まった。
一糸乱れぬ動き。
全ての個体が、同じ頭脳を得て動いているかのように・・・パルスで持ち上げた水を接着剤として、整列―――否、自分たちを配置していく。
「・・・これは・・・まさか・・・!?」
あるいはパズルのように、あるいは細胞のように。
急激にそれは意味のある形状を成していく。
パルスの光が止む。
そこには―――巨大なクエに似たシルエットが完成していた。
「組み上げたのか!?
自分たちの体を材料に、パルスを使って・・・!!」
「まさに
〈ミリオナ・カウア〉が急加速で突撃してくる。
咄嗟に回避しながら、チャナは横腹に一撃を入れた。
殴った部位を構成する個体が潰れ、爆発する。
しかし―――すぐさま、他の個体が穴を補い、元通りになる。
「しかもコイツらには、ボスがいない!!
倒しきるまでこれを繰り返すことになるってワケ!!
最悪だよねー!!」
レオンは、聞きながらヘッドギアを潜水モードに切り替え、腰上のあたりまで海に浸かる。
「いやはや、本当に最悪でありますな・・・」
〈ミリオナ・カウア〉がパルスで衝撃波を起こし、レオンに放つ。
レオンは両腕をクロスし、
「―――フゥンッ!!!」
気合の雄たけびだけでこれに耐えてみせる。
〈ミリオナ・カウア〉が若干怯み、後退する。
「・・・しかし、新技の実験にはちょうどいい相手であります。
副隊長殿、サポートをお願いします」
「へぇ・・・ってことは、ようやく出来上がったんだね?」
「自分だけ遅れを取るわけにはいきませんからね。
事務総長殿を認めさせるためにも―――力を示す!
スピードにも、精密さにも負けない・・・ぼくのパワーを!!」
「いいじゃん、ウチも見せてもらうよ。
―――ほいじゃ、行こうか!!」
「
ひとりは水に潜り、ひとりは水面から跳躍する。
挑むはふたり。迎え撃つは集合体。
二対無数。
数の概念を覆す戦いが始まる。
≪続≫
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