第2章 -6『VS〈トライアル・メタルキャンサー〉①』

 



 ―――戦闘開始から数分。

 織火とレオンが選んだのは、まず相手の攻撃を見極めることだった。




『ちょっこんまっかん逃げてばっかじゃんか!!

 それでウチの〈メタルキャンサー〉を倒せるのか、ルーキィーーーーズ!!』


 パルスが唸り、ハサミが水を打ち付ける。

 そのたびにプールの水が少しずつ硬化し、水上の逃げ場を奪っていく。


「カノン!」

起動オン

「援護する!」

 

 織火はカノンを、レオンはブラスターを発射。

 パルスの光と火薬の光が連続する。

 織火は、少しずつパルスカノンの扱いがスムーズになっていた。

 だが、カノンにせよブラスターにせよ、撃ち出す砲撃は装甲に阻まれ、決定打にはなり得ない。


 そして何より厄介なのが―――“泡”だ。


『ほーらほら、そろそろ逃げ場も少ないぞぅ!?』 


 〈メタルキャンサー〉の口にあたる位置、シャッター状になっている部分が開き、そこから細かい泡のような薬品が吐き出される。


「来たぞ、回避行動!!」

「くそっ・・・!」


 細かい泡は、硬化した地面の上で合成され、ドーム状の大きな泡を形成する。

 そして、そこへパルスを込めたハサミが打ち付けられると―――、




 青い光と破裂音。

 ―――泡は、硬化した水面を粉々にしながら爆発する。




「で、見て結果どうだレオン」

「うむ、ハッキリ言おう!!

 これは付け入る隙がない!!一体どうしようという感じだ!!」

「ちゃんと気が合ったな、これが一回目だ・・・で、諦めるか?」

「愚問だね!!」

「今ので二回目だな・・・!!」


『私語をしていいのはウチだけなんじゃあーーーッ!!!』


〈メタルキャンサー〉が跳躍、ボディプレスを仕掛ける。

 硬化していない部分に着水し、すぐに足場を形成する。


『ひゅー、全く優れた耐水性・・・!!

 ほんのわずかな水すらもコックピットに流れてこない・・・!!

 誰が作ったんだろー?これは誰がー?誰が作ったー?

 ウチでぇ~~~~す♡

 と言いつつチェーンソーだァァァおらおらおらァァァ!!!』


 ハサミがガシュンと音を立てて展開し、内側から装置がせり出す。


「まずい、距離を取れレオン!!」

「了解!!」






 

 ガトリングガンだった。






 どぱらたたたたたたた。

 ドタバタとジェットを噴射し、二人は慌てて回避する。


「ウソを言うなよお前バカか!!!!!!」

「恥の概念がないのでありますか!!!!!!」

『せ、戦略ですぅー!!!!!!

 実戦に卑怯もクソもないんだよ、青春ども!!!!!!』


 ヤケクソ気味にガトリングを連射しながら、横歩きで地団駄を踏む。

 その地団駄でもやはり水面は硬化し、ジェットブーツの行動範囲を減らしていく。


(―――?・・・待てよ・・・)


 レオンが、ふと気付く。

 ポロリと漏らしたチャナの発言に対する、ある矛盾。


「オルカ!!」

「―――!!」


 レオンはアンカーを使い、水面をいくつか壁のように隆起させて硬化し、煙幕を焚いて姿を隠した。


『く・・・作戦会議でもするつもり?

 面白いじゃん、煙幕が晴れたらボコしてやらあ・・・!!』


 


 ―――意図を汲んでいた織火は、レオンと共にひとつの壁の影にいた。


「・・・何か思い付いたのか?」

「さっき副隊長殿はご機嫌でこう漏らしていた。

 『ほんのわずかな水すらもコックピットに流れてこない』、と」

「あぁ、確かに言ってたけど―――それがどうした?」

?」

「・・・そういえば、そうだな・・・」


 初めから行動を思い起こしても、必ず〈メタルキャンサー〉は足場を硬化させながら動いている。

 たまにあの“泡”で壊した部分も、すぐに歩いて埋めに行っている。


「いちいち足場を作らなくても、水中から攻撃した方が有利なはずだ・・・」

「思うに・・・〈メタルキャンサー〉の武器は、水中では使用できないか・・・

 もしくは、使うことに不都合があると考えていいだろう」

「となると―――奴を水中に引きずりおろす必要があるのか。

 けど、どうする?そもそも俺たち、防戦一方だぞ」

「―――その役目、ぼくに任せてほしい」

「考えがあるのか?」

「考え、というレベルの話ではない。

 この作戦にぼく以上の適任者はいないと断言しよう」


 レオンの瞳が、自負と情熱にギラつく。


 ―――最初から思っていたが、織火はこの目に覚えがあった。

 スプリントの記録が誇りだった頃の、昔の自分と同じ目だった。


「―――もう勝ち負けの話はナシだな。

 正直、俺はお手上げだ・・・・・・・・・信用するぜ、軍人」

「民間人の応援とあっては励まなければいけないな!」

「それじゃあ―――」




 ふたりがそのまま簡単な打ち合わせをしようとしたとき―――背後の壁が音を立てて粉砕された。

 スモークに煙るシルエットに、目玉だけがらんらんと輝いている。




『―――ぼちぼち、君らに不穏な気配も感じてっからね。

 こっちもそろそろ真剣にやらせてもらうけど、準備できてる?』


 織火とレオンは真っ直ぐに〈メタルキャンサー〉を睨む


「できてなきゃあ、やめてくれるのか?」

「ここからは自分らも現場のアドリブを試させてもらいます・・・!」


『上等。じゃあ、行っっっっく―――』


 ギリリと音を立て、鉄のハサミが振り上がる。

 ここからは、互いの思惑を確かめる本物のトライアル―――!


『―――ぞぉッ!!!』


 衝撃。

 今度はハサミの着弾点からの水質硬化に加え、オリヴァーも使っていた“海の槍”もセットで付いてくる。


 




 織火は走りながらレオンを見る。

 くるくると、人差し指を回す仕草―――『走り続けろ』。


(それがキツいって話なんだけどな・・・無茶言うぜ―――!)


 言いながらも、織火は目前の邪魔な柱を見据えて加速する。

 これは、射撃ではなく斬撃が必要だ。


「アーム!近接攻撃もあるんだろ!?よこせ!」

『パルス・レーザークロー、起動オン


 右腕が要請に答える。

 マルチアームが組み変わり―――指の延長線上に、五本の刃を形成する。

 刃は最初赤熱し、やがてパルスを帯びて青い炎を生じた。


「これは―――爪か!」


 爪ならば、用途に迷うことはない。

 織火は水面を走る速度を保ったまま、硬化地面スレスレを幅跳びし―――進路上の柱を、クローで引き裂いた。向こう岸に着水し、速度を殺さず逃げ続ける。

 ガトリングガンの照準が向くが、織火のスピードには追い付けない。





 レオンは、〈メタルキャンサー〉の意識が織火に向いているのを確認すると、腰にマウントしたボックス型のパーツを手に取った。

 それは複雑に組み上がり・・・顔全面を覆うマスクのようなヘッドギアを形成する。

 

 更に、ジェットブーツがヒール部分を中心に変形し―――レオンは、水面に対するホバーを失い、水中へと沈んで行く。

 ―――否、それは沈んでいるのではない。明確な意図を持って自ら姿勢を制御し、水の中へと進入していく。


 完全に体が沈み切る直前、レオンは誰にともなく告げる。

 アメリカ海軍・巨魚対策部隊、その技術の名前を。

 自らの心に、許可を求めるかのように。




「こちら、レオナルド・ダウソン戦闘員。

 これより―――潜水戦闘ダイビング・コンバットに移行する」


                             ≪続≫

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