そして今日も。

ぴろりろりーん♪

「いらっしゃいませー」

次の日のコンビニ。佐久間はいつも通りレジにいた。昨日飴ちゃん来たのか。大丈夫だったのかな。

帰りに告白されたのは正直ビックリした。でも、振られるとわかってて告白したというのにはもっと驚いた。凄いなぁ。

ぴろりろりーん♪

「いらっしゃいま…あ、飴ちゃんだ」

「おはようございます、佐久間さん。ほんとに飴ちゃんって呼ばれてた…」

「今日はこれから学校?」

「はい、そうです!」

いつもは夜来る真奈美が今日は朝早くから来た。晴れやかな顔をしている。が、目の下が赤い。沢山泣いた跡がくっきり残っていた。

「昨日の事、戸川から聞きました?」

「うん、全部聞いた。ほんとにごめんね」

「謝らないでくださいよ。私がただけじめを付けたかっただけです」

にこやかに話す真奈美にいつもの営業スマイルを崩して笑う。この子はこんな風に笑う子だったのか。いつも顔が緊張してたな。

「そういえば、なんであのタイミングで告白したの?」

「飴が、一昨日で100個目だったからです」

彼女がいる。報われない。でも諦めることが出来ない。ならば飴が、が100個貯まるまで、と思ったのだ。

「おかげさまですっきり前を向けます」

「きっと素敵な恋ができるよ、飴ちゃんなら」

「ありがとうございます!」

「…でもまた飴は買うんだ」

真奈美はまた飴をレジに持ってきていた。

「これは、1ですよ」

「そっか」

「単純だって笑わないでくださいね」

お会計を済ませて、彼女は新しい恋へ踏み出す。どうか幸あれ、と小さく願った。

と、真奈美は店を出る前に客がいないことを確認して佐久間に向かって

「そういえばプロポーズの結果はー!?」

一瞬驚いた顔をして、佐久間はピースサインをした。あの時と同じ笑顔で。

.

教室の隅のいつもの席。今日も戸川は本を読んでいた。もちろん眼鏡をかけている。

おはよー、おはよう!わらわらと教室に人が増えて少しずつ騒がしくなる。いつもの朝。

「おはよーう!」

いつもは反応しなかった声に反応してしまった。真奈美だ。すっきりとした笑顔だ。

「おはよーって真奈美目が真っ赤じゃん!」

「えへへ、昨日泣いちゃった」

なになにどうしたのー?と周りに人が集まる。その光景をみて戸川は小さく笑った。そしてまた、本の世界に戻った。

と、誰かが机の端にいる。顔をあげると真奈美がいた。

「おはよう」

「おはよう。昨日はありがとう」

「いえいえ。すっきりしたようで」

「おかげさまでね。服洗って返すよ」

結局涙でぐしゃぐしゃになった服は真奈美が持ち帰り戸川はコンビニの制服で帰った。

「まぁいつでもいいよ」

「いやいや、早めに返すね」

昨日あれだけ話したというのになんだかくすぐったい気持ちだ。すると真奈美が手を出して。

「戸川、手だして」

「なに?」

「あげる」

コロン、と1つ飴が手のひらに転がった。

「昨日のお礼」

「だからって飴なのはなぜ」

「いいでしょ別に!」

真奈美ー!と誰かが呼んだ。今行くー!と答えた彼女は、

「じゃあ、またコンビニでね」

と言うと行ってしまった。

戸川はその背中を見送って、飴を口にいれた。

『じゃあ、またコンビニでね』

さっきの言葉が響く。甘酸っぱいレモン味。

胸がキュッと、苦しいような、でも悪くない、優しい痛みを感じた。

.

「ねぇ真奈美、なんで飴だったの?」

事の顛末を一通り聞いたクラスの女子が話しかける。戸川との会話は、内緒にした。

「あのね、笑わないでよ?ホワイトデーのお返しに意味があるって知ってる?贈るもので相手への気持ちを表すの。"嫌い"はマシュマロ、"友達"ならクッキー、


"好き"はキャンディなの」


-あなたが好きです-

飴に託した少女のメッセージに少年が気づく日はいつになるのか。

今日も彼女はコンビニへ行く、今日も彼はコンビニにいる。


2人の物語は始まったばかり。

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とあるコンビニ物語。 結月 万葉 @mywld71

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