第12話 王様

 今回からすこし書き方を変えます。

 なんかぜんぜん進歩がないようなので。


* * *


 わしはなんと罪深い男なのだろう。


 大国を治める王は、心の内でぼそりとつぶやいた。

 顔はやや青ざめている。


 ここ200年ほどは何事もなく平和がつづいていた。

 しかし、何の前触れもなく、魔族の王である幻獣王が共存の約束を一方的に破棄してきたのだ。

 人間も魔物も互いをちょっとばかり反目していたが、うまく折り合いをつけて生きてきたというのに。

 これでは古代にあったという人間と幻獣王の全面戦争の再来になりかねない。


 すでに何人もの使者を幻獣王に送ったが、帰ってきた者はいなかった。

 つまり、彼らはもうこの世にはいないということだろう。


 そこで、わしはついに最後の切り札を使うことにしたのだ。

 平和がつづく限り、決して表には出してはならないという禁じられた種族。

 人間にとっての最終戦力、……そう、『勇者』だ。

 勇者に幻獣王の説得を依頼し、もしこれに応じないようであれば撃滅する。


 まったく気が滅入る。


 @ @ @


 謁見の間で、勇者にわしは会った。

 歴戦の豪傑のような者を想像していたが、まだあどけなさの残る青年だった。


 彼を死地に赴かせると思うと、心が痛む。


 しかし彼は、自分の役割を悟っていたように。

 冒険を楽しみにしているかのように、らんらんと瞳を輝かせていた。


 わしに会っただけでも、後ろの垂れ幕はなんなのか、硬いのにやわらかくもある床はなんなのか、どうしてこんなに広いのかなどひっきりなしに質問をしてきた。

存在を隠されて生活させられていた子が、ある日、突然に外に出て思いっきり暴れてくることを許されたようでもあり、不安がなくはない。

 なるほど、危ういともわしは思った。檻に入れられていた野生の獣を野に放つようなものだろうか。この青年は世界を知らなすぎる。もっともそうしたのは我々の先祖なのだが。


 青年に充分な装備を用意してやりたいのは当たり前なのだが。

 国の財政は綱渡りの状況であり、与えてやれるものは限られていた。

 それでも感謝して旅立った青年に対して、わしは罪悪感しか残らない。


 せめて古代より機能が生きていることを信じて、青年が道半ばで倒れてしまった時は、この城に転移させ蘇生できるよう整えようと思ったのであった。



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※反目

※気が滅入る

※歴戦

※豪傑

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