第9話 ひょうきん

 おれたちの通う高校。

 その昼休み。学食での出来事だった。


「お前さ、ちょっと太ったんじゃね?」

「女子たちがいる場所でなんてこと言いやがる!」


 おれに対していきなり爆弾発言をしやがった友人。

 怒鳴ってやった。ふざけんなや。


「いやいや、なに怒ってんの! 僕はお前のためを思って言ってやったの!」

「なにがだ!」


「よく考えてみろって! 男子にとって理想の女子ってどんなだった?」

「……ほどよく健康的に肉のついた子だな」


「だっろぉおお!!」

「だからどうした」


 友人は自分のなかで勝手に納得している。

 この友人はこういうことがよくあるのだ。

 自分の考えが、まるで世の真理のように思っている節が。

 そこにいつもおれは振り回される。


 むかつくことに、おれはそれを嫌だと思いながらも、待っているから困る。

 なんだかんだで好きなのだ。……いやいや、やっぱ嫌いだ、認めん!


「つまりだ。理想の男子もすこし太っていたほうがいいってことなんだよ!」

「だから太った言うんじゃねえ!」


 気にしてんだから。

 周囲がこっち見ながらひそひそと話を始めてるじゃねーか。


「つまり僕はお前のことを考えて、周りの女子にアピールしたかったわけよ」

「単なる嫌がらせだって間違いを自覚しろ!」


「聞いてくれって。こんなに肉付きのいいイケメンがここにいる!」

「…………」


 そうかそうか。



「ほーん、じゃあおまえさ」



 おれは究極とも言える切り返しを行う。

 この言葉におまえはどう答えるの?


「おれの身体とお前の身体を交換できるならするか?」

「あ、それは僕、絶対にお断り」


 こいつはほんとに。

 おれじゃなければもう100回は軽く超えて殺している自信がある。


「おまえ、ほんとふざけんなよ!」

「ふざけてねえって!」


「じゃあ真面目か! 真面目なのか!?」

「おう! 本気で真面目にふざけてるんだよ!」


 毎回毎回、相手にするのも疲れる。


「……まあ気持ちだけ受け取っておくわ」

「気持ちだけか? 僕の身体も受け取っていいんだぜ?」


「顔がよくなければ、ほんっときっしょいやつだよな、おまえ」

「他人の悪口を言うと、自分に返ってくるぞ?」


「おまえにだけは言われたくないわ!」

「僕のは、愛、だから平気だぞ」


 今日もおれから折れるしかない。

 無言で顔を逸らして、おれは手早く食器を片づけると、学食から逃げた。


「あ、イケメンが逃げた」

「やかましい!!」


 最後も無視できずに突っ込んじまった。



検索単語

※怒鳴る

※ひそひそ

※片づける

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