第8話 きちょうめん
「まだやってんのか、そろそろ帰ろうぜ」
「まだだ……あとすこし」
放課後の高校。
おれは教室内で友人と友人の席に視線を行ったり来たりさせている。
「そんなに気になるもんか?」
「四角い教室に対してぴったり角度を合わせて机と椅子を配置しないと気分が悪いだろう」
まあ、わかる。
角度がずれてると黒板に書かれた内容をノートに書くとき気になるよな。
こう、視界がずれているような。
それにしてもこだわるね。
もう10分以上も机と椅子の位置取りを微調整しているぞ。
「よし、完璧だ!」
「そらよかった。じゃあ帰ろうか……あ」
がっ。
おれの足が、友人の机の下部を蹴った。
「ああああああ」
「す、すまん」
「い、いや、いい……だが、元に戻すまでもうすこし待っていてくれないか」
「お、おう」
おれは気まずくなって、友人が納得いくまで付き合った。
その夜。
友人からスマートフォンにメッセージを受け取った。
『今日は時間を取らせて悪かった』
『おれのほうこそ蹴っ飛ばして台無しにしてすまん』
別に改まって謝るほどのことじゃないと思うんだが。
友人は気が済まないようだ。
『いや、謝らせてくれ』
『じゃあ気持ちだけ受け取るよ』
『そ、そうか! ふう、許してもらえないんじゃないかと心配した』
『そんなことねえって』
人間関係にひびが入ることを嫌ったのだろう。
完璧を求めるやつめ。
友人は話題を変えてさらに問うてきた。
『宿題はもう済ませたか?』
『いや。数学だっけ?』
『数学と国語だ! 忘れたら大変じゃないか!』
『はっは、忘れたら学校でやらされるだけだ。安心しろ』
『宿題は復習も兼ねているのだぞ。忘れたら成績が悪くなってしまうぞ?』
『別にそこまで気にしねえなあ』
最終的には一夜漬けすりゃあテストもなんとかなると思うんだが。
でも、友人は宿題をすることを勧めてくる。
『小さな油断が大きな不幸になるかもしれないんだぞ』
『宿題ひとつでそんな大げさな』
『いいや、お前はわかっていない。いますぐ宿題をやるんだ……』
『わ、わかった』
メッセージ越しに友人の迫力が伝わってきて、おれは宿題をやることにした。
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