第6話 がんじょう

「おれたちって付き合い長いよな」

「まあ腐れ縁ってやつだな」


 高校の帰り道。

 雪がしんしんと降っていた。


「前々から聞きたいと思っていたことがあるんだが聞いてもいいか?」

「俺にしか答えられないことか?」

「というかおまえのことだ」

「俺のこと?」


 おれは、真剣な眼差しでこくりと頷く。

 怪訝な顔をする友人に尋ねてみた。


「どうして夏服なんだ?」

「やっぱタンクトップのほうがいいよな」


 そんなわけがあるか。

 と内心で突っ込みを入れた。


 ちなみに着る物にまったく興味のないひとのために付け加えておくと。

 タンクトップってのは、袖がなく肩に引っかけて服の位置を維持する、薄い生地の上着だ。筋肉自慢の人がよく着てそうな上着と言えば想像できるだろうか。


 このくっそ寒い室外。

 雪が降っているということは氷点下だ。

 なのに、隣であっけらかんとしている友人の服装は、高校指定の夏服だ。

 見ているだけで寒さが増してくる。


「小学校のときはおまえ、ずっとタンクトップだったよな」

「あれは、いい時代だった……」


 遠い日のように目を細める友人。

 大人ぶってはいる高校生のおれたちではあるが、小学生から高校生といえばまだ子どもの範疇だろう。


「なら試しにタンクトップで登校してみたらどうだ?」


 冗談のつもりでおれは言ってみた。

 すると。


「入学当日にもうやった」


 ぶっ飛んだ答えが返ってきた。

 おれたちは起床時間がずれているため、登校はいっしょではない。だから、友人の登校姿をいままで知らなかった。自分を貫く……相変わらずの男だぜ。


「そ、それで?」

「風紀委員に校門前で取り押さえられた」


 当然の答えが返ってきた。

 御用だ御用!


「取り押さえられてどうなったんだ?」

「明日からは制服を着てくるように、って……ジャージなんて厚着をさせされた」


 ぐぬぬ、と悔しそうにうなる友人。

 なんなのだろうか、寒いのがそんなに好きなのだろうか。


「もう高校生だし、あえて聞くが……なんで薄着にこだわるんだ?」

「俺は逆に問いたいんだが、どうしてみんなはあんなに厚着をしてるんだ?」


 友人は日本育ちである。

 ロシアでもアラスカでもない。関東の都市部で生まれ育ったはずだ。

 産まれたときの環境からくる齟齬はありえん。

 

 おれは自分の感想を素直に話してみた。


「これでも充分に寒いんだが?」

「うそだろっ!」

「周りをみろ、お前みたいに薄着のやつがいるか」

「うーん、趣味で重ね着をしているだけだと思っていた」


 驚く友人。

 すげー発想するね、こいつ。


「じゃ、じゃあ、寒くないのか?」

「むしろ暑い……というか動きにくい」


 なるほど。




 そういえば、とおれは思い出す。


「おまえって怪我しても保健室に行かなかったよな」

「そうだが?」


 なにかおかしいか?

 とでも言いたげな友人。


「いや、普通は盛大にすっころんで、擦り傷を作ったら保健室に行くって」

「ああ、そういうのか。べつに唾つけときゃ消毒できるし問題ないだろ」


 こいつ、産まれる時代が違っていたら、すげー出世していたのかも。

 こう、個人の武力が重要視される時代に。


「熱を出したことくらいあるよな?」

「あるぞ」


 普通の人間だったようで安心した。

 まあ、産まれてから高校まで一度も熱を出したことのない人だっているかもしれないが。すさまじく希有だろう。と、そんなことを考えていたら、だ。


「学校は休みたくなかったから、どんな熱でも行ったが」

「休めよ!」


 よくいままで無事でいられたな!

 すると友人が反論してきた。


「いやいやおめえ、熱くらい適当に汗かいときゃ治るだろ」


 どうやら、汗をいっぱいかくためにも、熱がでたら学校へくるようだ。

 移されたくはないが、誰から移ったかなんてわからんしな。

 こいつを咎める方法はないし、間違っているとも言えないか。



 聞けば聞くほど友人の頑丈さがうらやましくなってくる。

 


検索単語

※尋ねる

※氷点下

※あっけらかん

※範疇

※御用

※齟齬

※希有



独り言

「範疇」って難しい単語だったんだな……。

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