第2話 たくましい

 これはおれの友人の話だ。

 ちなみにおれたちは高校三年生。


「マサトくんさあ……高校生で独り暮らしってマジでできるの?」

「あ? できるできる。余裕だぜ!」


 友人はひょうひょうと答えた。


「お金は?」

「ん、家賃でほぼ消えるな。野宿でもよかったんだが警察官に怒られてよぉ」


 それは当たり前なのではないか?


「仕方なく区役所? だかなんだかよくわかんねえとこに連れてかれて、ちょっとだけお金はもらえるようになったから問題ねーな」

「いや、それでも足りないんじゃない? 着る物とか食べ物とかはどうしてるのさ?」


「着る物は知人、友人からゆずってもらってる。さすがに下着だけは買ってるが」

「……食べ物は?」


「バイト先のパン屋のおっちゃんがいい人でさ! 売れずに余ったパンを毎回どっさりくれるんだぜ! めっちゃ豪勢なひとときだ……」


 それはそれでありだと、おれは思った。

 売れ残ったパンを食べ放題か……いいかも。

 いやいや! ちょっと待て!


「そう都合よく余るもんでもないだろう? 余らなかった場合はどうすんの?」

「知ってるか? 雑草ってけっこう腹に溜まるんだぜ!」


 知りたくなかった。

 犬のうんこやしょーべんがかかっていたらどうする。


 と、友人は表情をやや引き締まったものに変えて、つづけた。


「ああ、でも電気と水が通ってなかったときはさすがにやばかったな」

「当たり前だ!」


 思わず怒号。

 それなしに現代日本をどう生きる。


「いや、電気はなくてもあんま問題なかったんだが、水がな……」

「まさか川の水を飲んだとかじゃ」


 はっはっは、と友人は笑った。


「いくらなんでもそこまでオレも無謀じゃねえさ。ちゃんと飲み水をもらったぜ」

「へえ」


 なにその、もらった、とかいう不穏な響き。

 おれは尋ねてみた。


「どこでもらったの?」

「洗車で水をぶっかけてた家を見つけてな。水をわけてくれって頼んだら、飲み水どころか身体までついでに洗う水を分けてくれたぜ! いやあ、ついてたわ!」


「その水はどこから出てたの?」

「青くて細い管からだが?」


 唖然とするおれをよそに、友人はきょとんとしている。

 聞かずにはいられないことを聞いてみた。


「進路はどうするのさ?」

「高校さえ卒業すりゃあ、もっと働き口は増えるだろうからな。ばんばん仕事してオレも贅沢な暮らしを目指すぜ!」

「そうか、がんばれ」

「おう!」


 おれは、どうしても『進学』という言葉を友人に問いかけることができなかった。そして、自分自身も進学について深く考えるようになった。


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※豪勢

※唖然

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