第13話 キノコ美味しい!
昔、幼稚園の頃よく遊んでいた公園に見たことのない女の子が現れるようになった。その子は誰と遊ぶでもなく、冷たい目で距離をとって佇んでいた。不思議だな、と思いながらも俺は友達と遊ぶのに一生懸命で声をかける事はなかった。その女の子は雨の日もいつも同じ場所に居たが傘もささずに立っていて、それがどうしても気になり、家から勝手に傘を持ち出して女の子に差し出した。
「かぜ、ひいちゃうよ」
「……」
女の子は凄く驚いたように目をまんまるにして、傘を素直に受け取る。
「ありがとう、お兄ちゃん。◼️◼️に話しかけてくれたの、お兄ちゃんがはじめて!」
その笑顔はあまりに甘く、蕩けるようなもので真っ赤になったのを覚えている。
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音域の高い目指し時計を乱暴に止めると見慣れた天井が目に入る。
「……なんだか、随分と懐かしい……夢だった気が……」
目覚めてしまえばどんな夢だったか思い出すことはできず、ぼんやりと輪郭のつかめない感情だけが残されていた。
「ゲ、今日バイト休みだったのか」
早出だと思ったバイトは翌日だとアプリのカレンダーが教える。早起き損だな……と思いつつ頭はさえてしまい、二度寝は難しそうだ。
とりあえず朝ご飯でも食べるか。
顔を洗い、歯を磨き、いつものルーティンをこなして冷蔵庫を開けると昨日友達から貰った煮物をレンジにいれる。近くに住んでる女の子が作りすぎたとタッパーにいれて持ってきてくれたものだ。昨日は外食を済ませたあとだったから食べることはできず、冷蔵庫へ大事に寝かせていた。
「お、キノコだ。旬だなぁ、いただきます」
一口、二口。
美味しいなあ、キノコなんて自分じゃ買わないから嬉しい。家庭的な女の子には弱いな。
空腹によく効く優しい味付けで箸は止まらずどんどん食べて進めていく。それにしてもこれ、なんてキノコだろうか。初めて見るな。まあ、美味しいからいいか。
んん、でもなんだが舌が痺れて……。
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「毒キノコを食べさせてくる女が家庭的なわけないでしょ、お兄ちゃんは本当にお馬鹿なんだから」
苦しみもがき、吐瀉物が広がる中、男は自分の吐瀉物を喉につまらせ息絶えていた。最も、つまらせずとも毒であっという間に死んでいただろうが。
黒髪を二つに結った女の子は男の見開かれた瞳を愛おしそう撫でる。
「女の方は味見もしてないって事だよ。ほぉんとお兄ちゃんは見る目ないよねぇ」
ぐちゃり。
男の目が女の子によって取り出され潰される。
「ハルを見ない目なんていらないよね」
空間が大きく歪み、渦となる。女の子の頭部は大きな鳥のような西洋の甲冑のような、異形のものへと変わり躊躇いなく男を飲み込んだ。身体は少女のまま、気づけば背中には大きく黒い蝙蝠のような翼が四枚生えている。
「ハルを思い出さないと本当にお兄ちゃん死んじゃうんだから。ねえ、お兄ちゃん。お兄ちゃんを殺すのはハルだけだよ」
背の翼が大きな音を立てその「世界」を割った。
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