第11話 薬は用法・用量をお守りください
何度も同じ夢を見る。何度も、何度も自分が死ぬ夢。
とてもリアルで、例えばナイフで刺される時の感覚や、足を吊って海で溺れた時の苦しさ。全てが夢とは思えないほど生々しく、目が覚めても動機はおさまらない。そんな日々を繰り返していたら俺は眠ることが恐ろしくなってしまった。
「ハァ、ハァ……」
時刻は深夜二時を過ぎたところ。どれだけ睡眠薬を飲んでも、病院に行っても改善されることはない。
俺はどうしてしまったのだろう。うたた寝程度でも同じ様にその夢を見る。必ず自分が死んで……そして……そう、その時、誰かいつも近くにいる。けれどそれが誰なのか、とか、そもそも夢なのに、とか。眠れなくなって一ヶ月近く、バイトも大学も行けなくなり、すっかり引きこもりとなってしまった。
「うっ……!」
さっき見た夢はトラックに轢かれて文字通りぐちゃぐちゃになった自分。それを思い出し、吐き気がこみ上げる。
「なんで、なんでこんな目に」
友人も突然こうなった俺を心配しつつ、どこか不気味がっていた。本当に突然、こうなってしまった。たしかあの日は……そう、目の前でアイスを落とした女の子がいて……黒髪が綺麗な、小学生か中学生かくらいの見た目で……。
『……つまんない。そういう死に方するんだ。もういいや、そんなお兄ちゃんには興味ないし、今回は放っておくね、お兄ちゃん』
その子の瞳が一瞬だけ赤く光った様な気がした。とても冷たい声と冷たい視線。お兄ちゃんと呼んでいたけど、俺に妹なんていない。
「くそ、くそ、くそ! だれか、だれでもいいから、助けてくれよ……俺は、俺は……生きてるよなぁ? 死んで、ないよなぁ?」
俺の視界に、薬箱が目に入った。
◇◆◇◆
「つまんない」
◼️◼️◼️はもがき苦しみ死に絶えた骸に◼️◼️◼️を突き立てる。◼️◼️◼️事は出来ないが、とうにこの体にその魂はない。ただの人形と同じだ。
「ハルはね、お兄ちゃんが殺されて死んじゃうのが好きなの。お兄ちゃんが勝手に死ぬのは大嫌い。つまんない」
数えるのも馬鹿らしくなるほど「リセット」し続けた世界。今回の彼はうまくリセットがかからなかったようだ。
「そのくせハルのことは覚えてないし、本当にツマンナイ」
ノイズ混じりの声はそれでも美しさを失わず、六畳程の一室は暗闇に覆われる。よほど機嫌が悪いのだろう、◼️◼️◼️は骸を飲み込んだ。
世界はリセットされた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます