第10話 n回目の既視感
「前にどこかで、会ったよね」
目の前の幼い女の子へそう問いかけると、黒髪がよく似合う女の子は満面の笑みを浮かべて頷いた。
風船を持っていその子はその手をパッと離し、赤い風船は空は空へと上っていく。思わずその動きを目で追ってると女の子が抱きついてきた。
「お兄ちゃん、えらいね、えらい!」
「お兄ちゃん……?」
「うん、お兄ちゃん。ハルのお兄ちゃんだよ」
この女の子とは数十分前に出会ったばかり。目の前を歩いていたこの子が転んで、声をかけたのだけれど、なんでか初めて会った気がしない。お兄ちゃん、と呼ばれることにも違和感がない。
「ごめん、でもどこで会った中思い出せなくて」
「いいよぉ、ハルはとぉっても寛容だもん!」
「はは、そりゃありがとう。……あー、でもそろそろ離してもらえると嬉しい。周りの目が痛い」
なんと言ってもここは公園。主に主婦の方々からの目が痛い。どう見ても兄妹ではないし。
「しょうがないなあ〜。でもそうだね、そろそろ離れるね。お兄ちゃん死んじゃうし」
「いやいや、死なないって。大袈裟だなあ」
そう言って笑った五秒後、居眠り運転をしたトラックがフェンスを壊し、俺は数分悶えた末意識を失ったのだ。
霞む世界で見た女の子の姿がぐにゃり、黒い何かに歪んだ気がした。
「お兄ちゃん、ハルだけのお兄ちゃん。とっても綺麗だね」
◼️◼️◼️は笑う。
足元に転がるのはもはや意味のない骸だ。それをつま先で愛でるように転がす。
◼️◼️◼️は笑う。
あと何回死を見れば良いか数えて笑う。
「はやく、はやく、来ないかなあ。その時が。楽しみダナァ」
ワルツを踊るように、◼️◼️◼️は次の世界へ足を向けた。
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