第9話 チンピラ違い
なんでこんな事になったんだ、と考えても起きてしまった事は仕方ない。仕方ない、んだけど。
「その可愛いおじょーちゃんがなぁ、俺の怪我してる足にぶつかってきたんだわ。なに? てめぇが慰謝料払ってくれんのかぁ?! あぁ?!」
「いや、アンタ十分ピンピンして……」
「るっせぇ!! ここは俺の島なんだよ、なぁお前ら」
髪型から服装、喋り方まで笑ってしまうくらいのチンピラが3人。
「お兄ちゃん」
「え、えと、大丈夫、大丈夫だよ」
買い物に行こうと外をでて15分。小さな女の子に群がる上の男たちが目に入った。周りの通行人はヒソヒソと遠巻きに見るだけで、気づいたら間に入っていた。女の子は黒髪を耳の上で2つに結った、愛らしい女の子だ。俺を見るなり笑顔になったが、そりゃそうだろう……1人で耐えてたんだもんな。
「なにが大丈夫なんじゃゴルァ!!」
ガッと頬に鈍い衝撃が走り、地面に尻を着いた。それを見て指をさし、汚い声で笑うチンピラたち。くそっ、他の人は警察も呼ばないのか。
「お兄ちゃん」
「っ、いて……。キミは、今のうちに逃げて」
傍にいる女の子に声をかけると、にっこり笑っていた。
「ううん、ダメだよ! こんなお兄ちゃん見るの初めてだもん!だから、最期までハル、ここにいるねぇ」
「え……?」
どういう事、と聞こうとしたら思い切り腹を踏まれた。そのまま3人に囲まれて身体中を蹴り飛ばされる。そのまま何十分蹴られたのか、身体中が痛くて、ぼんやり見える地面は自分の血で染まっていた。チンピラは動かなくなった俺を見て、唾を吐きかけどこかに行った。
「お兄ちゃんは優しいねぇ。今日はお兄ちゃん、あのチンピラじゃなくて買い物先で難癖つけられて違うチンピラから殴り殺される予定だったのに! 嬉しいなぁ、えへへ、嬉しい!」
あの女の子の声がする。
そうか、女の子は、無事だったんだ。
そこまでで俺の思考はすべてストップした。
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愛らしいピンク色のハンカチで青年の頬に汚く吐き出された唾を拭き取る少女。その表情は可憐な笑みを浮かべて、本当に嬉しそうにしている。
少女にかかればあんなチンピラなど、存在してもないも同然であり、青年が助けに入るまでもなかった。それになりより、少女の事を10分以上覚えていられるのは青年しかいないのだ。
「これはね、とっても嬉しい嬉しい誤算! お兄ちゃんがハルを守って死んでくれるなんて、ああ、嬉しいなぁ! 本当に嬉しい!」
心底喜ぶ少女の周りに生きてる人は1人もいなかった。
青年を殴り、蹴り飛ばしたチンピラたちも、遠巻きに眺めるだけだった通行人にも全員が息絶えている。
「ハルしか覚えてないのが残念だなぁ。じゃあね、お兄ちゃん、また次の世界で会おうね」
少女は冷たくなった青年の額に桃色の唇を落とし、姿を消した。
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