第8話 お手紙
「えーっと、電気代……これはガス代か。ポストの中見るの忘れるんだよな」
バイト帰り、半月ほど見てなかったポストの中を取り出して家の中でいるもの、いらないものを振り分けていく。と、ひとつ差出人不明の封筒があった。宛先はこの部屋の人へ。
「なんだこれ。呪いの手紙です…これを受け取った貴方は数日以内に死にます……イタズラかよ」
小学生の頃流行った不幸の手紙を思い出す。まだ流行ってるのか、こんなん。くだらないな、と思いビリビリに破いて捨てていると紙で指先を切った。
「いって……ムカつく紙だな」
所詮はただのイタズラ、と思っていた。
そんな手紙を受け取って数日、俺は失敗続きだった。バイト先ではオーダーの間違いに発注間違い、お客さんの服に水をかける……私生活では夢見が悪くそのせいか寝坊しがちに。乗った電車は必ず遅れ、通り雨に幾度も襲われ、その度に風邪をひいていた。偶然と思いながらも少し、あの手紙が気味悪く思えた。
「佐東くーん、ゴミ出してきてー!」
「あ、はい!」
今日のバイトはオープンからクローズまでぶっ通しだった。寝不足のせいもあり、なんだか頭がぼーっとする。ゴミ袋2つを手に外にでる。
「あとは拭き掃除して……終わりだな」
ゴミ袋を網の中へ放り投げ、背伸びをする。明日は休みだし、なにをしようか。ゆっくり惰眠をむさぼるのもいいな。
そんな事をぼんやり考えていると急に視界が光でいっぱいになった。
狭い道をありえないスピードで走るダンプが目に飛び込んで、あ、と思う頃には自分の身体は宙に舞い、そして──硬い地面へ容赦なく叩きつけられた。
……これも、ぜんぶ、あの手紙の、せいなんだろか?
「違うよ、お兄ちゃん。手紙なんてなくても、お兄ちゃんは今日死んじゃうんだもん」
痛みの中消えそうな意識の最後に聞こえてきたのは愛らしい……女の子の声だった。
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呪いの手紙なんかを信じているお兄ちゃんは本当に可愛い。滑稽で愚かで食べたくなるほど可愛い。
手紙なんてただの近所の小学生のイタズラなのに。それを気にしないふりして気にしてるお兄ちゃん。可愛いなあ、可愛い!
でも死ぬ間際まで手紙のことを考えてるのは妬いちゃうなあ。
だからその最期はハルの声で、埋めてね。
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