第7話 夏だ!海だ!
夏もそろそろ終わる頃、俺はバイト仲間と海にきた。曇ることない晴天で安心した。
「佐東くんが海にくるんなて、ちょっと意外かも」
「えっ、そ、そうですか?」
バイト仲間で1つ上の女の先輩。この人がいるから参加したと言っても過言ではない。
女性らしい体つきに黒いビキニを身につけている姿はとても素晴らしい。
と、ふいに小さな手が俺の手を握った。
「…………」
十代ちょっとになったばかりと思われる小さな女の子が俺の手を握り、じっと見つめていた。
親とかとはぐれてしまったのか。
「迷子、かな?」
「鼻の下」
「え?」
「鼻の下伸ばしてデレデレしてるお兄ちゃんは可愛くないなぁ。ううん、可愛いんだけど死んで欲しいくらい可愛くはないな〜」
そっと話しかけると饒舌に話だした女の子。だけど、何一つ理解はできない。
死んで欲しいくらい、ってなんだ?
「お兄ちゃんは、ハルのお兄ちゃんなんだから」
ぎゅっと握られる手が痛い。とても幼い女の子の力とは思えないほど。
「おぉーい! 佐東くぅーん!」
先輩の声がしてハッとそっちを見ると、先輩はすでに海の中で俺を手招きしていた。と、女の子から目を離したその時、握られていた手の感覚がすっかり無くなった。当たり前だが、女の子もいなくなっていた。
「すいません、なんか、小さな女の子に話しかけられてて……」
「女の子? そうなの?」
俺が邪魔だったのだろうか、先輩からは見えなかったらしくキョトンとした顔をされてしまった。
海の中は入ると海水温度は温く、夏真っ盛りであると感じた。
そのまま先輩に手を引かれて深いところまで進んでいく。先輩はこの海に何回も来ているようで、泳ぎやすいポイントがあるという。
「ここって本当に穏やかで泳ぎやすいんだ〜」
「そうっすね、波も穏やかだし……って、先輩、あれ!」
人気のない場所までたどり着くと、少し先に海からひょっこり見える「背びれ」が目に入った。あれはサメじゃないか?!
「え……きゃあぁあぁ!!」
「に、逃げましょう先輩!」
「どうしよう、私、昨日指を切って血の香りがするかも……っ」
パニックになり泣き出してしまった先輩の手を無理やり引いて浜へと逃げるように泳ぐが、うまく泳げない。緊張と混乱のせいで、手も足も思うように動かない。
思ったより浜から離れていてしまったようで、全然たどり着かない───と、ピン!と足が攣ってしまった。
「あっ、がっ…!!」
「さ、佐東くん?! ね、ねぇ、どうしたの! ねぇ!」
「足っ、つっ……! 先輩、にげ……」
バシャバシャと暴れまわると海水が口いっぱいに入る。先輩はまだパニック状態で逃げようとしない。あ、だめだ、沈む。
ゴポポと海に沈む中、サメが先輩の腕を噛みちぎり、海水が赤く濁っていった。
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──────
「よしよし、いい子。もう〜〜、お兄ちゃんたらずぅっとデレデレしてて嫌になっちゃうなあ」
大きなサメをまるで犬のように扱う1人の女の子がそこにいた。サメの背中に乗り、海水を綺麗な足で蹴り上げる。
「お兄ちゃんはなにやっても足つって死んじゃうからなぁ。でも女は別だよね! だってお兄ちゃんと手を繋いでだもん」
女の子はなにを歌おうかなあと鈴のような声を弾ませていた。
──まるで、祝杯のように。
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