第5話 コンコン、ガチャ
「あのね、お兄ちゃんは注意力が足りないと思うの」
ボロアパートの玄関チャイムが鳴り扉を開けると12〜3歳くらいの、見覚えのない女の子がそこにいた。髪を耳の上で2つに結った、可愛らしい女の子だ。
「え、いや……誰かな?どこかの部屋と間違えてるんじゃない?」
「えぇー! ハルがお兄ちゃんを間違えるわけないよ!」
「ハル……?」
「わっ、お兄ちゃんがハルの名前呼んでくれたぁ。えへへ、嬉しいなあ。幸せ!」
全く話が通じない。どうなってるんだ?
「いまだって覗き穴見ないで開けたでしょお? 危ないなあ。でもそういう危機感のなさとか、注意力の足りなさが魅力的!」
例えば美味しいものを食べた時のような幸せな表情──女の子が見せる顔を説明するならそんな表情だった。
「だからお兄ちゃん死んじゃうんだけどね」
変わらず幸せそうな表情のまま女の子はその顔に似つかわしくない事を言い放った。
それから数日後の事だ。
女の子はあの言葉の後、花がゆれるように軽やかな足取りで姿を消した。結局なんだったかは分からない。ただ、あの言葉の意味を深く理解した時は遅かった。
「チッ、人違いじゃねぇか……! おい! テメェの前にここに入ってた奴はどこいった!」
喉をナイフで切り裂かれて喋れるわけがないのに。つまり、俺は、人違いで死ぬのか。
走馬灯を見る暇もなく喉を切り裂いたそいつは腹いせのように何度も刃を、ふりかざし──────。
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「お兄ちゃんの声可愛いのにねぇ。あのラリラリおじさん、どうせ切るならアキレス腱にすれば良かったのになあ……」
そうすれば逃げられやしないのになあ。そう話す桃のような唇はこの世界のリセットを告げた。
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