第3話JRC部

尚平しょうへいは何部に入るの?」

 声の大きなクラスメイトが、親しげに尚平に話しかけた。

「決まってないんならさ、バスケ部の見学行かね?」

 この人、何て名前だっけ、『瑛治えいじ』だったかな、とぼんやり考える。

「ごめん、俺、他の部活の見学行こうと思ってて。」

「あ、もう決まってたのか。」

 なんだそっかー、他にいねーかな。そうぼやきながら、瑛治は席から離れていった。



 尚平は、再び校内地図をくるりと回した。

 部室は三階の端の会議室のはず。地図上では、四階のC組の教室を出て、階段を降りて右にある。

「階段、どこ?」

 一年生に配布された『結崎高校ガイドブック』に、「結高の校舎は複雑な構造なので要注意(上級生でも迷います)!移動教室の際は早めの準備を!」なんて文章が載っていたなとぼんやりと思い出す。

「校舎で迷子とか……。」

 思わずため息をついた。

「あれ?尚平くん?」

 振り返ると、クラスメイトの女子がいた。必死にクラスでの自己紹介を思い出す。

「…えっと、高階たかしなさん?」

 高階はにっこりしてうなずくと、何してるの、とこちらに来た。

「高階さん、階段ってどこにあるんだっけ?」

 言ってから、尚平は赤面してうつむいた。

「階段?階段ならこっち。尚平くんどこに行くの?」

 ついていこうかな、暇だし。そう呟いた。

「JRC部の説明会。」


「もしかして説明会聞きに来た?」

 どうぞ、入って入って。

 入り口に立っていた女子生徒に促され、二人は会議室に入った。

「今日はあんまり人がいなくてね、あと四人いるんだけど。」

 会議室の中には、先生が一人と女子生徒が二人、入り口の一人が加わる。

「二人とも、名前聞いてもいい?」

片桐尚平かたぎりしょうへいです。」

高階優乃たかしなゆのです。」

 入り口の女子生徒がうなずいた。


「え、高階さんも?」









「私、尚平くんとなら付き合いたいな。」

「は?」

 優乃の言葉に、尚平の心臓はひときわ大きな音を立てた。思わず間抜けな声を出す。

「中学の頃に彼氏がいたことあるんだけど、なんか合わなかったっていうか。」

「へえ……?」

 反応に困りながら、動悸が治まるのを待っていた。

「なんか、尚平くんとは相性良さそう。」


 尚平は、今まで『恋人』という存在を作ったことがない。それどころか、告白したこともされたこともない。

 憧れはあったが、自分とはどこか遠く離れたものだと思っていた。


「俺、付き合うとか相性とか、正直よくわからないんだけど。」

 優乃はうなずいた。

「うん。でも、私のこと嫌いじゃないよね?むしろ好き?」

「は!?」

 優乃の突拍子もない言葉に、顔全体に熱が広がった気がした。

「何言ってるの高階さん!?」

「あー、名字じゃなくて『ゆの』!」

 尚平は思わず口をつぐんでから、「ゆの」と小さく声に出した。

 優乃はうーん、と少し考えてから「及第点ってとこかな」と言った。

「なにそれ…。」

 尚平がげんなりして呟く。

「付き合うんだったら、やっぱり名前で呼んでほしいからさ。ね、尚平くん?」

 優乃はまたにっこりした。

 尚平は、深くため息をついた。


「JRC部の説明聞きに行っただけなのに…。」

「付き合うことになっちゃったんだ?」

 帰り道、巧真たくまが苦笑いしながら言った。

「嫌なら、ちゃんと断った方が良いと思うけど?お互いのためにもさ。」

「うん…。」

 曖昧に返事をして、

「でも、別に嫌ってわけじゃないんだよね。」

ぼそぼそと言い訳がましく言った。

付き合ってよ、と優乃に言われ、ときめきを覚えなかったわけではなかったのだから。

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