第2話 キャンプの基本の『キ』
同僚の
男と思われているのはまあ置いておいて、仲良く出来そうで僕はほっとした。
人間関係が一番大変で問題になるというのは20年しか生きていなくても
アイランドキャンピングパークは『
お洒落なヨッシーらしく、カラフルで可愛いアウトドアアイテムが管理棟にショップのように綺麗に並べられている。
お客さんがレンタルして気に入れば、そのまま中古品として売る。もちろん新品も用意してあるが、ほとんどの人が自分が使用したものを気に入って買う。
そして、島を回るためのカラフルなレンタサイクルがサイズ別に管理棟に20台ほど用意してある。
これもなんだかお洒落でヨッシーらしい。
まずはテントだ。
管理棟に置いてあるレンタルの3、4人用テントの張り方を教えてもらう。
「これを張れれば、大体のテントは応用が利く。キャンプの基本のキ、だな」
さっそくテントセットを担いで管理棟近くの海がよく見える広々としたフリーサイトに移動した。
グラウンドシートをまず敷き、その上にテント出入口の位置が風下になるようにインナーテントを綺麗に広げ、ポールを差し込んでエンドピンを入れる。立ち上がったテントとポールを接合させ、ペグを打ち込んでインナーテントを地面に固定する。
次にフライシートという雨風除けの外壁を上に被せ、接合させる。あとはフライシートのロープをペグで固定し、前室になるパネルをポールで跳ね上げると完成だ。
美月に手伝ってもらって順番に組み立てていくと、あっという間に小さな前室まである立派なテントが出来上がった。
立ててみるとなるほど、これならちょっとした雨でも快適に過ごせそうだ。
夏でも換気の部分は網になっているので虫も入らないようになっている。
僕は本当にいつ振りかっていうくらい感動した。家を自分で作ったかのようだ。もちろん作れないけど。
「すっ…すげー!!」
「だろ?わかるよ、俺も初めてのときマジ感動したって。っていうか、おまえ力弱すぎ」と言ってバカにするように笑った。
ポールを曲げてエンドピンにいれるのに力がいるので苦労したことを指しているのだろう。力が弱いのは仕方ない、一応は女なのだ。僕は面倒なので彼の言葉を否定せず、
「ほえー、広いですね」とテントを覗き込んだ。ジッパーを開けて入って寝転ぶと、思ったより広い空間が広がる。
(宇宙に漂う船みたいだ…夜になるとどうなるんだろう?気になるな…)
そして地面がごつごつして痛い。草の上だがダイレクトに地面の形が伝わる。これでは寝られない。
「今夜ここで寝てみたいんですが、いいですか?」と聞くと、彼はニヤッとした。僕がそう言うのがわかってたみたいだ。
「冬用のインナーシートとマットを敷いて、寝袋で寝れば床も痛くなくなる。今夜は天気もいいからきっと最高だ」と嬉しそうに僕が心配していた
夜番の美月が少し心配そうな様子で帰ると、僕は教えられたとおりにチェックアウトの作業と使用済みのサイトの掃除をし、共同スペースの清掃をした。
近所にあるビジネスホテルで受け付けのバイトをしたことがあるので余裕だ。それにほとんどの人が事前にネットで申し込みの際にクレジットで支払う。
ここは島なのでうるさくないし景色がとても良い。それに値段もあまり高くないせいか連泊する常連さんも数人いる。
お風呂は車で5分の所に共同温泉浴場があり、お客さんに聞かれたらそこを案内するよう言われている。
もちろん温水シャワーの設備はあるのだが、大体のお客はその温泉に行くようだった。
昼になったので管理棟でサッポロラーメンを作る。
白菜を細長く切って茹でて、いい
僕は味噌が好きだが、母親が塩派なのでなかなか味噌味が食べられない。
そして母親が作ると麺を
テントの側にベンチを持って行って座り、ゆっくり海を見ながら食べた。
静かだった。波の音だけしか聞こえない。こんなところにずっと一人でいると日本語を忘れそうだ。
(気持ちがいいな…ぼんやりするのってこんなに気持ちがいいんだ…)
そういえばナユがいなくなってからずっと頭が動き続けていた気がする。寝ている時も、ずっとだ。
でも今日はナユのことを少し忘れていた。申し訳ないという気持ちとホッとする気持ちがせめぎあう。
そして電波がないので携帯はウンともスンとも言わない。死んだナマコみたいになった電話の電源を切ってカバンに放り込んだ。充電の消耗が半端ないのだ。
『電波が届かないキャンプ場』
それがここの売りだ。
実際本当に売りになっているのかは怪しいけど。
14時。
チェックインの時間に近くになると、ネットや電話で予約してくれたお客さんが受付に来た。
常連さんに「そう、そこの棚にレンタルの帳簿があるから」と教えてもらい作業を進める。僕の方が気を使ってもらっていた。
彼らは横のつながりでヨッシーの家の火事のことを知っていたので同情的だ。常連同士で連絡を取り合っているから知ったそうだ。
「すいません、慣れてなくてご迷惑をかけます」と謝ると、
「全然いいんだよ、わからないことがあったら聞きにおいで。火事だろ?オーナーも大変だねぇ」とお客様から心配される始末だ。
僕は赤くなりながら、なんとかお客さんを予定の各サイトに振り分けた。常連さんはお気に入りの場所があるので注意だ。パソコンでチェックインの処理をし終わった頃、
「エエト、予約ナイノデスガ…
肌が薄いコーヒー色で目が茶色い…どこの国の人だろう?美しい顔立ちをしている。身長は185はありそうだ。僕は168なので彼を見上げ、指で万国共通であろうオッケーサインを作った。
「大丈夫ですよ、エンプティ、オッケーオッケー」
「ヨカッター」
彼はニカッと笑ってニット帽子を脱いだ。
(うわあ、雑誌で見る外国のモデルみたい…)
あまりに美しくて見とれていると、
「フフフ、カッコイイデショ?」と彼は自分の髪に向けて親指を立てた。
「うん、スーパークール、だね!」
僕がそう言うと、嬉しそうに「サンキュー」と言って笑った。人懐っこくて明るい、誰からも愛されそうな裏のない笑顔で。
「ここに、プリーズライトヒアー」
片言の英語で申込書に記入を促した。英語が記入欄に併記してある。
背が高いのでかがんで記入する彼を僕はぼんやり見ていた。
(…あ、指も長くてとても綺麗…スタイルが良くて顔も綺麗で指も綺麗なんて神様は不公平だな。ふーん、ソロキャンプ…1人なんだ。名前はリアム、22歳ね…へえ、ハワイから?なんでこんな日本海の電波も何もないキャンプ場に…?それにハワイなら島も海もあるじゃん…)
僕の疑問の視線を受けて彼はにっこりした。
「日本ヲ旅シテマス。グランマ日本ジン」
(祖母が…なるほど、だから日本に。肌の色も日本人の血が入ってるから少し明るいのかな?ここに来てから美月といいリアムといいなんだか刺激的な人に出会うもんだな…)
「わからないことあったらいつでも、イフ、ユーワンダー、アイムヒア、プリーズカム。マイネームイズ、マナ」
適当な英語でサイトの地図とキャンプ場の説明をし、空いてるサイトを指さし、好きな場所を選んでもらった。
ナンバーカードを渡しながら「ハバーナイスディ」と言うと、にっこりして僕の手にチュッと音を立ててキスした。
「サンキュ。マナ…カワイイしイイナマエ」
「あ、ありがと…」
僕はリアムの22歳とは思えないあどけない笑顔と初めてのアメリカンなあいさつにほっこりし、お礼を言った。っていうか、リアムは僕が女だってわかってるようだ。さすが外人…なんて彼の顔を見ながら感心していたら、
「オーッス」と事務所に元気にごつい男性が入ってきた。美月だ。
時計を見るとまだ4時だったが、心配で早めに出勤してくれたのだろう。早すぎて眠れたのか心配だ。
でも僕は一人ぼっちでいた緊張がほどけて、美月に抱き着きたいくらい嬉しくて思わず涙ぐんだ。こんなにほっとしたのは大学に行くのを止めた時以来だ。
そんな僕を見て、
「おまえなあ、男のくせに!」と彼は大笑いした。
男だと思っているにせよ、酷い。僕は頬を思い切りふくらませた。それを見てリアムがわかってるのかわかってないのかクスクス笑った。
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