第四話 灰色の目

 二つ歳が違うだけで、なぜこんなにも大人びてるんだろう。

 彼女を見て僕はそう思った。


 彼女は洗練されていた。


 僕は、自分の幼さが恥ずかしかった。

 そして彼女が発した言葉に、僕はなんと返していいか分からないでいた。


「……生きる?」


 しばらくしてから僕は尋ねた。


 女の子は僕を見た。彼女の目は、灰色だった。

 彼女は何も言わずに真面目くさった表情で僕を見つめた。それから、ぷぷっと笑いはじめた。

 僕は戸惑った。


「いいの、気にしないで」と彼女は言った。


 海からの風が吹いた。彼女のスカートが揺れた。

 ポータブルカセットプレーヤーからは、まだ“ニュー・ウェイヴ”が流れていた。


 女の子が僕の肩に触れた。

 その手は、信じられないほど冷たかった。

 Tシャツ越しの感覚だったけど、それでもその冷たさは異常だった。

 僕は目を丸くしてしまった。


「いつか……いつかまたメリーゴーラウンドに乗ることが出来たら、どんなに素敵だろう、って思うの」


 ひとりごとのようにそう言って、それきり彼女は黙ってしまった。


 僕はなぜか悲しくなった。

 海鳥が鳴いていた。

 僕は、彼女が話し出すのをひたすら待った。自分から話をはじめることは出来なかった。


「わたしなんかがいなくても、メリーゴーラウンドはずっと回り続けてる。当たり前だけど、それってなんか寂しい」


 女の子はようやく言葉を発した。

 僕は、その言葉の意味がよく分からなかった。


 だけどこの時には、僕はすでに彼女の正体について気づきはじめていた。


 女の子は立ち上がった。そしてスカートについた砂を落としてから背伸びをした。

 僕は彼女に、何の言葉もかけられなかった。


 彼女は言った。「ねえ、君の話をしてよ」


 仕方なく、僕は今日あったことを話した。なんで僕が遊園地に来ることになったのかというところからはじまり、ちょっと楽しかったお化け屋敷のことや、一緒にお化け屋敷に入った不愛想な渡辺さんのことやなんかを。

 女の子は僕の傍らに立ったまま話を聞いていた。僕は座っていた。

 僕は、今日感じた孤独についても彼女に話した。ジェットコースターを降りた時、男友達の一人がかっこつけて同級生の女の子の肩を抱くのを目撃した話なんかもした。なんでそんな話をしたのかなんて分からないけど、とにかく今日僕が感じたすべてを彼女に伝えたかった。


 話を終えた僕には、今日あった出来事が遠い日の思い出のように感じられた。

 そして今日起きたすべてが、少しだけ愛おしくなった。



「いいなあ」


 女の子は、そう呟いた。

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