第二話 透けるスカート
セーラー服だった。
スカートが一瞬透けて見えた気がして、僕はどきっとした。
白い脚は長く、大人っぽかった。
その女の子には不思議な透明感があった。まるで全体的に透けてるような感じさえした。
はあ、と僕は息を漏らした。
素敵だな、って思った。
制服を着てるんだから、女の子は僕より年上に決まっていた。
彼女は、地元の中学校の制服を着ていた。
でも見覚えのある制服とはなんとなくちょっぴり違う気がした。リボン、それに襟の形に違和感があった。
もしかしたら、彼女のお姉さんのお古とかなのかもしれない。
「座ってもいい?」彼女は訊いた。
「あ、うん」と僕は答えた。
女の子は僕の横に座った。
いい匂いがした。
黒い髪の毛は、長かった。
僕の同級生の女の子の髪は跳ねてたりぼさぼさだったりするけど、彼女の髪は清流のように整っていた。
僕は自分の髪型が恥ずかしくなったけど、気にしないようにした。
近くから彼女の顔を見た。
目は吊り上がっている。まつ毛は長く、優雅にカールしていた。
海風が吹いてまつ毛が揺れたのを見て僕は、ああ、年上の女の子なんだなあと思った。
上品に小さな唇は、柔らかな笑みを浮かべていた。
鼻は高く、そして小さかった。
年上の綺麗な女の子が僕のすぐ横に座ってる。
少し、緊張してしまう。
「何してるの?」女の子は明るい声で尋ねた。
「あ、えーっと……」しどろもどろする僕。
「海、見てたの?」
「うん、そう」
女の子は観覧車を眺めた。
「観覧車、もうライトついてるんだね」
「うん。曇ってるせいで暗いから、かな」と僕は言った。
「君、いくつ?」彼女は訊いた。
「十二」
「そっか、じゃあ小学生だ」
「もうすぐ卒業だけど」
ふーん、と彼女は言った。
「わたしは中学二年」
「じゃあもうすぐ中三だね」
女の子は何も言わなかった。
それに心なしか、寂し気な表情を浮かべたように見えた。
女の人に歳を訊くもんじゃない、ってよく聞くけど、でも今の場合彼女のほうから言ってきたんだもんな、と僕は自分に罪がないことを確認する。
波の音がした。
さっきまでずっと聞こえていたはずの波の音だけど、なぜかその音は急に僕の耳をくすぐった。
僕の二つ年上の女の子は、「うーん」と伸びをした。
セーラー服が突っ張った。
見てはいけないような気がして、僕は彼女から目を逸らす。
「観覧車、好き?」唐突に彼女が訊いた。
「いや……別に」
「じゃあ、メリーゴーラウンドは?」
「あんまり」
「え? 好きじゃないの?」女の子の前髪がたらり、と彼女の左目を隠した。大人っぽくて、色っぽかった。
「うん。遠くから見てるほうがいいかな」
「なんで?」
「疲れちゃうんだ。くるくるくるくる、みんなと一緒にバカみたいに回るのって、なんだか本当に疲れちゃう。そんなバカっぽいみんなを、僕はただ外から観察してるのがいいんだ」
そっかあ、と彼女。
それから急に女の子は向き直って、いたずらっぽい微笑みを僕に見せた。
「一緒に乗ろ? メリーゴーラウンド」
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