美人問答
硬派のオレに夏海がちょっと相談があるって、
「リュウ、校内一の美人は誰やと思う」
「そりゃ、写真部の加納か陸上部の小島だろう」
二年のこの二人が抜けてるどころではないのは校内の常識以前のお話。加納は翳りなく燦々と輝く女神で、天使の小島は可憐に舞い踊る蝶ぐらいに喩えられる。オレも最初に新聞記事で読んだ時は『いくらなんでも言い過ぎやろ』と思ったんやけど、硬派のオレでも実際に見て『ホンマにそうや』と見惚れてもたからな。
タイプが違うから女神の加納派と天使の小島派がいるけど、他はちょっと考えられへんってところ。華やかさから加納派の方が多いかもしれん。オレは硬派としてどっちかと言うと小島派やけどな。
「他にはおらへんか?」
他にはって言われても困るんやけど、
「綺麗さだけなら氷姫もいるけど」
「二年の木村か」
「でも木村は怖い・・・」
二年の木村も綺麗と言うだけなら加納にも匹敵する美人やが、ありゃ、性格的にちょっと癖があり過ぎるわ。三年のオレでも、あの目でにらまれたらビビリ上がるぐらい怖いからな。なんちゅうか恋愛対象にするにはすこぶる難ありやもんな。氷姫を女神と天使と並べるには無理があると思うんやけど。
「他は?」
夏海は誰を思い浮かべているんやろ。他はドングリの背比べみたいなもんやんか。
「他にも可愛いのや、綺麗なんはおるけど、加納と小島は別格やろ」
「リュウ、他にはホンマにおらへんか?」
そない言われたって、思いつかへんわ。夏海だって前に言うとったやんか、
『加納の女神様ってあだ名はホンマにダテやないわ』
てっきり夏海は加納派やと思とってんけど、加納以上の美人でも見つけてきたんかいな。それやったらそれで硬派として興味あるけど、おるんやったら一年やろな。二年や三年の格付けはもう済んでるし。
「ダイスケ、一年に加納より美人でも見つけたんか」
「全部は知らんけど、見たことない」
そやろな。オレも見たことないし、おったら新聞部が書きたててるはずや。それぐらい加納や小島は抜けてるさかいな。加納や小島を凌ぐ美人が今まで話題にもなっとらへんかったら、そっちの方がビックリするわ。あれだけの美人はテレビや映画の女優やアイドルでもまず見かけへんぐらいや。いや硬派としてマジで見たことない。
そんな加納や小島以外がどうかとしつこく夏海が聞くってことは、夏海が好きになった女のことやろな。昔から言うやんか、『あばたもエクボ』てな。惚れこんでもたら加納や小島以上に美人に見えても構わんと思うけど、それをオレに当てろというのは無理あるやんか。ほいでも無理はあるけど、オレも硬派やから知りたいのは知りたい。
「誰か好きな子でも出来たんかいな。ダイスケが誰を好きになろうと勝手やし、誰を美人と思おうが勝手やけど、それをオレに当てろと言うのは無理あるわ」
「好きなんは間違いないけど、リュウがどう思っているか知りたいんや」
オレがどう思おうと勝手やと思うけど、妙に引っかかる話し方やな。
「ダイスケ、降参や。誰のことを話しているのかサッパリ見当がつかへん」
そしたら夏海が、
「リンドウや」
これは不意打ちやった。まさか夏海がリンドウの話をしているとは夢にも思わんかった。そうなってくると話は硬派としてガチやな、
「リンドウは次元が違うわ。どれだけオレらがアイツの世話になってるかと思うと、感謝の言葉しか出てけえへん」
「それだけか、リュウ、ホンマにそれだけか?」
嫌な念押しをしやがる。ここで『それだけ』って答える訳にはいかへんで、そんなんしたらオレがピエロをさせられてまうやんか。いくら夏海でも硬派として譲れんもんは、譲れんへんよ。根性決めて問答せなあかん。
「それだけや、あらへんで」
「やっぱりそうか」
まさかと思てたけど夏海も相当ガチやな。ホンマ油断も隙もあったもんやない。まあ、この辺はオレだけと思う方が甘かったかもしれへん。つうか、野球部の中だけに限れば、リンドウの人気はひょっとしたら加納や小島より高いかもしれん。リンドウだってあれは、あれで可愛い顔してるし。
しかしやな、口に出させてどうするつもりやねん。別に夏海がリンドウを好きやってもかまへんし、オレが好きになってもかまへんやんか。ひょっとしてあれか、宣戦布告とか、それとも先制攻撃とか。
まあ、口には出さんというか、練習では毎日口に出してるようなもんやけど、夏海も口先だけやなくて心底マジなのはようわかった。でも、それやったらそれで負けてられへん。オレだって硬派としてガチやからな、
「それがどないしたん言うんや」
「確認したかってん」
なんの確認やねん。オレに下りろとでも言うつもりか、それとも下りてくれるって言うんやろか。
「そこでな、相談があるんや」
この場で決闘でもする気なら、硬派として受けて立ってやるつもりやってんけど、どうも話が違うみたいや。
「ホンマにやるんか」
「当たり前や、それともリュウは出来へんいうんか」
「他の連中、えっと、ススムはどうなんや」
「賛成した」
「えっ、あのススムまでか・・・」
聞いてみると、オレがどうやら最後みたいや。
「それやったらオレもやるぞ、力いっぱいやったるわ」
「よっしゃ、決まりや」
なんかワクワクしてきた。やったろうやないか。それにしても、あの夏海がこの企画を持ちこんで来たのに驚いた。夏海も中学の時はガチガチの硬派やってん。それでも、まあ、こんな軟派な学校で二年ほど揉まれたら、あれぐらいはしゃ~ないやろ。オレですら少し軟らかくなったって言われたぐらいやからな。
でも思たわ、夏海の話の切り出し方はヘタクソや。あんな持って回った言い方するもんやから、エライ勘違いするとこやった。下手すりゃ硬派のオレがリンドウ巡って決闘しそうになったからな。もっと硬派らしくストレートに聞いてこんかい。たぶん冬月の話し方を真似したんかもしれへんけど、夏海には絶対向いとらへん。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます