第12話 葵、勇雲を嗤う

 叡克と穎悟の申し入れが上手くいった日から三日ほどたった今日、雅たちは延旺に会議に参加するようにと言われていた。ようやく本日、六匹の将軍が揃うようだ。

 長慶たちが机や椅子をいつもの部屋に運び込んで、配置に苦心している。雅が手伝おうとすると長慶は「雅は娘だから手伝わなくて良い。手伝いなら葵と迅江にさせるから、これでも食べながら待っていなさい」と言って綺麗な細工の飴をくれた。

 葵が「長慶は雅にだけ贔屓する」と言い、迅江が「ここまであからさまだと、いっそ清々しいな」と返すのを聞きながら、おとなしく邪魔にならないように隅で座って飴を舐めた。

 準備が終わった後もしばらくそうしていたら、穎悟が大きな軀の貓を連れ立って入ってきた。口の中に残った飴をごくりと飲み下すとその貓が雅に向かって近づいてきた。

 座っている雅の前に山ができたかと思うほど大きかった。縦にも大きいが横にも大きい。太っていると言うよりも、筋肉を凝縮して固めたような印象だった。

 雅を指差すと後ろの穎悟に向かって「これが皇女様か!ちっこくて、めんこいな!」と大声で話しかけた。穎悟はやれやれといった様で「そうだ、乱雑に扱わないでくれよ」と言う。「そうか!」と言って大きな手で雅の頭を撫でてくれたのはいいが、雅の頭は大きく左右に揺れて、目が回りそうだった。

 ぐりぐりと頭を回されていると穎悟が「一軍将軍の秀超だ」と言うのが聞こえて、確かに穎悟とは全然違う部類の将軍だなと、感じた。だけど無骨な軀と茶目っ気のある表情は裏表がなさそうで、好ましく思えた。

 秀超は雅から手を離すと隣の葵の腕をむんずと掴んで「皇子様の割にはいい筋肉をしている!」と言っていた。それを聞くとなぜか葵は嬉しそうに目を輝かせて「秀超将軍はすごい筋肉だ!」と秀超の軀を撫でさすっている。

 よくわからないけれど意気投合しているようなので、放っておいた。

 扉を見ていると別の将軍らしい精悍な顔つきの貓が入ってくる。あれが楼雷将軍かしらと首を傾げていたら、叡克が細身の知的な雰囲気の貓を連れて入ってきたので、あっちが宝担将軍だからきっと自分の考えは正解だと頷いた。

 続いていつもの面子が入ってきて、将軍たちと延旺、それに葵と雅は椅子に座った。

 皆が着席するのを見届けると、穎悟が最初に口を開いた。

「まずは呼びかけに応えてくれた秀超、楼雷、宝担の三将軍に礼を言う」そう言って穎悟が深く頭を下げると楼雷、宝担の二将軍も頭を下げた。しかし秀超は「まあ勇雲は儂もどうにかせにゃあと思っていたところだ。それに儂は穎悟との素手の闘いで、顔面に三発ぶち込めたし、酒の呑み比べでも徹底的に潰してやって気分がいいから、礼を言われるようなことはねえ」と言って、がははと笑った。

 穎悟は一瞬苦々しい顔をしたが、すぐに真顔に戻し「軍としてはまずは穏便に、六将軍連名で勇雲の凶行に対する意見書を皇帝陛下に奏上しようと考えているが、如何か」と皆を見渡した。

「そんなものが今更皇帝に効くか?そもそもお前が言っても聞き入れられなかっただろう」

 隆典が反論すると「しかし形としてまず軍の意思を伝えておけば、のちに強硬な手段を取らざる得ない状況になった時の防波堤となるのでは」と返したのは宝担だった。

 見た目通りの知的な声音だった。

「形なあ、時間の無駄じゃないのか」隆典は諦めきれないようだった。

「時間は惜しいが、手順を省けば軍の暴走との誹りを免れぬかもしれぬ。ここはまず横車を押さずに、正面から申し入れしたい」

 穎悟がそう言うと「では早急に草案を作り、形にしましょう。これは私と叡克が得意とするところなので、お任せいただけるか」と宝担が繋げた。

「よろしく頼む」

「この会議が終わったら早速取り掛かり、今日中に作成しましょう」

「返答の期限を設けた方が良いのではないか」楼雷が条件を提案した。

「そうだな。不躾ではあるが、一両日にはご返答いただきたいと書き添えよう」

「問題は返事がなかったらどうするかじゃのう」秀超が腕を組んで言う。

「ああ、返事がない可能性は、多分にある」困ったように穎悟が言うと、観數が「その場合は武力突入をするのか」と聞いた。

「武力突入すべきだろう」答えたのは隆典だった。

「一刻も早く、勇雲を拘束すべきじゃろうなあ」同意を示すように秀超も言う。

 六将軍共、この意見に賛成に傾いている風に見えた。割と慎重派に見える観數ですら、静かに頷いている。

「勇雲を抑えない皇帝陛下にも問題はあるが、我々が早急に対応すべきは問題の根本だろう。後は突入の規模の問題だが」穎悟が会話をまとめる。

「あまり数を揃えすぎると、軍部の独断による反乱と民の目に映らぬか」観數がそう言うと「実際、突入は反旗を翻すのと同等です、今更繕っても仕様がない。それに民にとっては我々が問題解決に、真摯に取り組んでいるという姿をはっきりと示す方がいい。だからそれなりに数は揃えて派手に振る舞った方が効果的と考えます」宝担が冷静に返して「各軍百名ほどで六百が妥当か、と」繋げた。

 皆、目を見張った。皇宮には大勢の貓がいるが、武力を持つものは少ない。皇帝にとっての武力とはすなわち穎悟たち軍なので、その軍が背いてしまえば武力が全くないことになる。勇雲が日頃周りに連れている私兵がいくらかいるが、それでも百にも満たない上に、軍の兵士とは練度が違う。要するに弱兵がいくらかかってきても、同程度の軍の兵士がいれば赤子の手をひねるかのように制圧できる。故に、百いれば数としては十分なのだ。なのに、宝担はその六倍が妥当と言ってのけたのである。

「ろ、六百は多くないか?」楼雷が少しどもりながら言うと「いえ、僕も六百は用意した方がいいと思う」と叡克が割り込んだ。「先ほど宝担も言ったが、突入するのならば仰々しくやった方がいい。しかも各軍が数を揃えて正々堂々と事態の収拾に乗り出していることを民の目にしっかりと刻んでおけば、事後の収拾が円滑に行えるし、何より不測の事態が起こった時の保険にもなる」

 将軍たちに一歩も引けを取らずに意見する叡克を見て、雅は内心驚いていた。しかし不思議なことに誰も『書庫の主、風情が!』などと言って怒るような者はなく、逆に『お前が言うなら、そうなのかもしれない』といった空気が広がっていた。一体、叡克は何者なのだろうかと雅は考えを巡らせた。

「宝担と叡克が言う言葉には説得力があると俺は思うが皆は如何か」穎悟がそう告げると、納得したように皆頷く。

「では明日、意見書を奏上する。その次の日中に返答をいただけない場合は、軍の総意として突入する。突入に備えて各軍精鋭百名を揃えてくれ」きっぱりと穎悟が言うと、それが終了の合図となって、三々五々に席を立って部屋を出ていった。

 叡克と宝担はそのまま穎悟の屋敷の一部屋を借りて、夜遅くまで意見書を作っているようだった。次の朝、宝担から意見書を受け取った穎悟は即座に皇宮に向かった。戻ってきた穎悟は「皇帝陛下に直接渡すことはやはりできなかったが、側近に必ずお渡ししろと圧力をかけて置いてきた。後は、待つだけだな」と言った。明日の夜にはなんらかの決断が下される、そう思うと雅は胸の鼓動が聞こえるような気がした。

 

 

 刻限の日の夜更けを過ぎても、皇帝からの返事は来なかった。皆予想はしていたが、一様にため息をついて屋敷を引き上げて、明日に備えた。

 葵は部屋に戻り布団に横たわったが、頭も心も興奮していて、眠気が近寄る気配すらなかった。隣の迅江も同じようでごそごそと軀を動かす音がする。落ち着かなくて「いよいよ明日だな」と声をかけると「そうだな、葵はどう思っているんだ」と返って来た。

「正直、よく分からない。明日皇宮で起こる事の予想がつかないのだ」

「勇雲は捕らえられるだろうな」

「だろうな。素直に捕まるだろうか」

「さあ、いつもみたいに手下をけしかけて向かってくるんじゃないか?」

 ごろりと迅江がこちらを向く。

「葵は皇帝をどうするつもりなんだ」その言葉に葵はどきりとした。

「俺の一存では決められないが、民からすれば皇帝も勇雲と同罪だと思う。だから俺は皇帝にどうして勇雲を見逃すのか、聞きたい。それを聞いてもし納得できる理由だったら、皇帝に罪はないと認められる。だけどそうじゃないのなら」そう言って葵は黙る。

「民が納得する理由がないのにそんな事をするのなら、皇帝の資格がないって、俺は思うよ。そんな皇帝の国で生きていくのは真っ平御免だ。だからさ、もしそうなったら、葵が皇帝になれよ」

 迅江は真摯な光を宿した瞳を葵に向けていた。

「お前はいい奴だよ、友達の俺が保証する。それに今までずっと普通に暮らして来たお前なら、民の気持ちがよくわかるいい皇帝になれるんじゃないか?短尾だって蔑まれても強く生きて来たお前なら、弱い者に寄り添ってやれるだろう?」

「そうなったら、できると思うか?」

 そう問いかけると迅江はにんまりと笑って「できるかどうかじゃなくて、やるんだよ」と言った。

 難しい事を軽々しく言う迅江を見て、葵も笑った。

「さあ、早く寝よう。明日は長い一日になる」と言って迅江はごろりと後頭部を見せた。

 その言葉に従って目を閉じると、いつの間にか眠りに落ちていた。

 夜明け前に軀を揺さぶられて葵は目を覚ました。

「葵、起きろ」迅江は先に起きていたようだ。

 部屋の仕切りが開く気配がして、雅が顔を見せた。

 頭をかき回して、顔を二度叩いた後「行くか」と言うと二匹が頷いた。

 屋敷はすでに穎悟の部下が出入りしていて、まだ夜も開けていないというのに騒々しかった。入口の近くでは延旺が腕を組んで待っていた。

 葵たちの姿を確認すると「穎悟が駿を屋敷に回してくれている、行くぞ」と言って背を向けた。

 四頭の駿が引かれており、それぞれが騎乗した。ゆっくりと皇宮へ向かう延旺の後ろに従う。軍の北壁に沿って東へ向かうとそこは皇宮だ。皇宮の北門はこんな時間なのに空いていた。穎悟が門番に開けさせたのだろう。すんなり皇宮の敷地に入るとすぐ近くに御前軍が揃っていた。葵たちが入ってくるのを見て、穎悟が近づいてくる。延旺に向かって「三隊招集したので百を少し超えてしまいました」というと「多い分には問題なかろう」と延旺が答えた。

「延旺様と葵たちは、万が一の事あると困るので俺と一番隊の近くにいてください」

 そう言われたので葵たちは嵐昌の近くへと移動した。「他の軍もそろそろやってくる頃です」穎悟が延旺にそう話しかけていると、次々と北門から駿に騎乗した兵士が姿を表した。皆将軍を先頭に粛々と列をなして、進んでくる。

 全ての軍が集まった時、皇宮の北庭園は兵士の群れで埋め尽くされるようだった。それから穎悟の率いる御前軍を先頭に皇宮の入口をせき止めるように展開して行く。たくさんの駿の足音が聞こえる中、皇都は夜明けを迎えた。皇宮の異変に皇帝たちは気づいているだろうか、ふと葵はそう思った。

 傍の延旺に「勇雲や皇帝は逃げ出したりしないかな?」と問うと「逃げるようなら何か後ろ暗いことがある証拠。さっさとお前を玉座に据えればいいだけだ。それに逃げるといってもどこに逃げるのだ。勇雲など皇子という肩書きを失って皇宮から逃げれば、恨みを持つ民に、これ幸いにと鏖殺されるだけだ」と返ってきた。

 延旺の言葉に納得していると、駿から降りた穎悟が、怯えている皇宮の門番に向かって「御前軍並びに一から五軍の将軍連名で皇帝陛下に意見書を奏上したがご返答がいただけなかったので、不躾ながら直接いただきに参ったと皇帝陛下にお伝えしろ!」と大声をかけた。

 四匹ほどいた門番は震えながら門の中に引っ込む。中の者にお伺いに向かったのだろう。

 しばらくして出てきた門番はさらに震えており「皇帝陛下にはお取次できないとのお返事でした」とか細く声をあげた。それを見て葵はなんだか気の毒な気持ちになった。味方のはずの軍がこぞって押し寄せているのだ、怯えるのは当然だ。

 門番の言葉を聞いた穎悟は後ろを振り返り他の将軍たちに向かって「直接取りに来いとおっしゃっているようだ」と言うと将軍たちは剣を上げて答えた。

 穎悟が駿から降りると御前軍の兵士も同じように降りる。後ろで他の兵士たちも降りる音が聞こえた。駿の様子を見るために何十匹かの兵士を残して全ての兵が皇宮の門前に集まる。将軍を先頭に貓の群れが出来上がると腰を抜かした門番を置き去りに、群れは皇宮の門をくぐった。門をくぐる前に開け放たれたままの北門の方に目をやると、遠目でも民が騒動を聞きつけて集っているのが、見えた。こんな時間ではあるが、きっと軍が皇宮に突入したという噂は皇都でもう轟いているのだろう。

 先頭に近い場所で皇宮の内部を見た葵は、見たこともない荘厳な造りの建物に驚いた。想像していたのはもっとぴかぴかと華やかな様だったが、どちらかと言うと落ち着きのある優雅な造りになっていた。皇宮の内部にいるはずの内官や下男下女たちは軍の侵入に怯えたからか、一切その姿を見せなかった。

 隊列を組んで進む貓の群は穎悟の導きで玉座の間の左側へ回った。

「この奥に勇雲の部屋があるはずだ」と言う穎悟の言葉を聞いて目を向けると同時に、廊下の奥の扉が開き、勇雲とその私兵が飛び出した。遠目でも白く長い被毛と光のない漆黒の瞳が確認できた。

「止まれ裏切り者!」と顔を歪めながら叫ぶその姿を見ると、葵はむかっ腹が立った。裏切り者は皇子でありながら民を虐げる勇雲の方だ。三十くらいいる私兵と、その先頭ででたらめに剣を振り回しいている勇雲は、ひどく卑小でつまらない者に見えた。あんな下らない者に、林波の大切な弟を殺す権利なんてない。罪のない祝葉を嬲ることも、その他の者たちを毒牙にかけることも、そのどれもが勇雲とは釣り合わない。そう思うと葵の頭にかっと血がのぼった。しかもよくよく考えればあいつは俺の異母兄の子、いわば甥ではないか。延旺が忠誠を誓った父、偉大な勇崇偉皇帝の血をあいつは汚している。俺にも流れているその輝かしいはずのものを地に叩き落としているのだ。

 そう思った時、軀が勝手に動いた。

 前にいる嵐昌と延旺の間をすり抜け、穎悟を抜き去ると葵は駆けた。後ろで何か声が聞こえるがするりと耳を通り抜ける。床を蹴って勇雲を目指す。葵が近づくにつれて、武器を持ち、私兵を従わせているくせに怯えた表情を浮かべている勇雲が見えた。悪事ばかり働いているくせに、案外度胸がないのだなと思うとなんだか笑えてきた。あと一歩で手の届く距離というところで、葵は一際強く床を蹴って、翔んだ。そして右腕を思いっきり引いて、勢いのまま勇雲に向かって飛び込み、顔の正面に拳を叩き込んだ。

 葵の打撃の勢いで、勇雲の軀は後方に激しく吹っ飛んだ。しかしそれを見ても葵の怒りはちっとも治らなかった。うまく着地して、また勇雲に向かう。鼻が折れたのか血を流しているが、葵は御構い無しに胸ぐらを掴んで釣り上げる。勇雲の足が床から離れるほど上げると、今度は勢いよく床に軀を叩きつけた。

「皇子でありながらなぜ民を殺した!」そう一喝すると勇雲は卑屈な顔で葵を見上げた。

「下賤の者が!この私に手をかけるなど」と勇雲が喚いたので葵は「そうだ!お前と同じ血が流れていると、俺も下賤なのかと悲しくなるわ!」と言って、今度は足で勇雲の背を蹴った。そしてもう一度勇雲に「なぜ民を殺した!」と問うと、息を荒くしながらも「民など私の所有物だ。いくつ壊そうが私の勝手だ!民などいくらでも替えが効く、高貴なる私と違って!」と目を剥いて答えたので、いよいよこいつはもう頭が狂っていると思い、悲しんだ民たちの代わりに、力一杯勇雲の顔を踏みつけた。

 ごりっという嫌な音が響き渡った。生まれて初めて貓に暴力をふるったが、なんてつまらない行為だろうと思った。感情に任せて殴るなどというのは、こいつで最後にしようと決意したら、ようやく周りが見えるようになった。勇雲の私兵たちは嵐昌と兵士たちに武器を突きつけられて観念したようになっている。後ろから「葵!何をしているのだ、危ないだろう!」という声が聞こえたので振り返ると、珍しく穎悟が憤慨していた。すごい剣幕だったので、素直に「ごめん」と謝った。穎悟は何も言わずに、すっと軀を葵と倒れたままの勇雲の間に滑り込ませ、葵を守るように後ろへ追いやった。後ろにいた延旺と目があい、怒られる前に自分勝手な行動を詫びようとしたが「よくやった」と、なぜか褒められた。

「へ?」と変な声が出たが延旺は気にせず「己の正義に反する者に対峙した場合、時には危険を顧みずに先頭に立って戦うことも、立派な皇帝の振る舞いだ」と言った。

 どうやら葵がとった行動は、穎悟を怒らせたが、延旺にとって好ましいものだったようだ。葵は胸をなでおろすと喜色満面の迅江と心配そうな表情の雅の元に戻った。

「お前なかなかやるじゃないか!格好良かったぞ」迅江は葵の肩を叩いて大喜びしている。

「こう、胸のところがすっとした」そう続ける迅江に「あんな嫌な奴、殴ってもちっとも楽しくなかった」というと「まあ、皆の代わりをお前が務めたんだ。それでよしとしろよ」と返された。

 あれほどまでに我を忘れた事は今までなかった。頭より、軀の方が先に動いたのだ。葵は勇雲を殴った右の拳をみて、あれは自分じゃなくて脈々と受け継がれた皇帝の血が、それを汚す者に対して制裁を加えたのかな、と思った。見たこともない父、勇崇偉の存在を初めて身近に感じた。

 ふと目を、同じ血が流れている雅に向けると「葵、無茶したらだめなのよ。怪我をしたらみんな悲しむわ」と静かに諭された。ここでも「ごめん」と頭を下げると、葵たちの左側を厳重に縄打たれた勇雲が運ばれていくところだった。私兵たちも一様に縄を打たれて連行されていく。

 皇宮内に大勢の軍がいて、勇雲も捕縛された。それはもう皇帝の知るところであろう。しかし、未だ何も動きのない皇帝の態度に、葵は不安を覚えた。極限まで追い詰められているというのに静かなままの皇帝が勇雲などよりよほど怖いもの思えた。

 

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