第101話*

 あなたが車を降りて出発ロビーに行くと真理が待っていて、航空券その他を渡してきた。真理は会社の事務をしている女性で、あなたの表の顔しか知らない。

「急な出張お疲れ様です」

 遅い時間だというのにキュッと口角をあげて笑った。


 ダミー会社とは言っても、きちんと商売は行っている。産業用ロボットの触感センサーを扱っていて、全世界に顧客が居た。従って、今までも急な出張が無いわけじゃない。あなたの偽装は優秀なサービスエンジニアということになっているのだ。


 あなたは危険かもしれない任務に出かけるに先立って、真理を抱きしめたい衝動に駆られるが我慢をする。一夜限りの関係はともかく、一般人との永続的な恋愛感情は推奨されていなかった。


「ありがとう」

 軽く手を振って別れを告げると航空会社のカウンターで搭乗手続きを済ませ、腕時計に目を走らせる。登場時刻までには時間があるが、保安検査と出国手続きは済ませておいた方がいいだろうと判断した。


 ちなみに、この腕時計はあなたの生体メーターを兼ねている。時刻の横に表示されている数字は5。万全の体調を現していた。この数字が0になるとき、時計からは針が飛び出しアルカロイド系の毒薬があなたの血管に注入され、あなたが吸血鬼の眷属になることを防いで速やかな死を与えることになっている。そのため、この腕時計は任務中は原則的に外すことは許されていない。


 ふと振り返ると真理がこちらをまだ見ていて、肩の所で小さく手を振った。あなたは再び真理の顔を見ることができるのだろうかという不安を振り払い歩きはじめる。


 ⇒第77話に進むhttps://kakuyomu.jp/works/1177354054890935249/episodes/1177354054890936065

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