第60話*

 あなたは屋敷を背にして道を戻る。すぐに言われていた踏み台が見つかったので、それを使って石垣を超えて獣道を進んで行く。やがて前方に黄色い明かりが見えた。近寄ってみると酒場を兼ねたB&Bだった。かすれた文字でジョーンズの店と書いてある。これがサミュエルの言っていた店なのだろう。


 敷地には何台かの車が止まっている。あなたは店の扉を開けて驚いた。こんな寂れた場所にある酒場なのに、それなりにお客さんが入っている。カウンターや背の高い丸テーブルの周りでビールグラスを片手に談笑していた。見慣れないあなたのことを気にはしているもののあからさまに反応する様子はない。


 あなたはカウンターに近づき、前掛けをしている男に声をかけた。

「予約してないんだが部屋は空いてるかい?」

「空いてますよ。うちは全室、独立したコテージになってるんで、ゆっくり休めます」

「それじゃ、1泊頼むよ」

 あなたは宿泊カードに名前を書き込み、宿代を前払いする。


「それと、その美味そうなキドニーパイとミネラルウォーターをもらおうか」

 紙幣をカウンターに置くと、店主の顔に浮かんだ表情にあなたは言い訳がましく言った。

「本当は自慢の一杯を貰いたいところなんだけどね。サミュエルさんのお勧めのやつさ。だが、服薬中でね。お酒は厳禁なんだよ」


「おや、ダンナはサミュエルとお知り合いで?」

「実は道に迷って聞いたら、ここを勧められたのさ。ここのビールを飲んでいけってね」

「そうでしたか」


 あなたはさり気なく探りを入れる。

「これだけ繁盛しているんだから、サミュエルさん以外のあそこのお屋敷の人も来るんだろうね」

「さあ、サミュエルじいさんはこの村のもんだが、屋敷の連中は知らんね。人付き合いが嫌いらしい」


 あなたはキドニーパイを口にして大仰に目玉を剥いてみせた。

「これはうまい。ううむ。ビールを貰えないのが残念だな。俺が近所に住んでたら毎日来ちまうがねえ。これ、追加で3つほど貰えるかな。部屋でゆっくり頂くとするよ」


 店主が別の客の相手をしにいったタイミングであなたはカウンターを離れる。店を抜け教えられた通りに裏口を出ると数棟のコテージがあった。あなたは鍵を取り出して同じ番号のコテージに入る。扉を閉めるとパブの笑いさざめく喧騒が消えた。


 戸締りを確認するとシャワーを浴びる。もし怪我をしているなら救急キットを使ってもいい。薄いゼリー状のものが傷口を覆い消毒殺菌してくれる。シャワーを浴びるときも着けていた時計を見れば、体力値は5を指しているはずだ。あなたは確信を胸に仮眠を取る。


 あなたは異様な感覚で目を覚ました。コテージの外に何かがいる。


⇒第74話に進む

https://kakuyomu.jp/works/1177354054890935249/episodes/1177354054890936061

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