第18話*
あなたは応接室のソファで目を覚ます。適度なクッションでよく眠れた。通常業務で出かけた際にパイプ椅子3つで仮眠を取るのと比べれば月とスッポンだ。応接室にはトイレもついている。用を済ませて部屋に戻るとドアをノックする音が聞こえた。
ロンドン支部長が手に袋を下げて入って来る。袋からはエージェントの標準装備を取り出した。コルト、予備の弾丸、銀製のコンバットナイフ、救急セット。次々とあなたに手渡す。
「分かっていると思うけど、これらの品々の携行はこの国でも一応違法よ」
あなたは了承したと答える。弾丸は装填済みのものを含めて9発だ。
「それから、これを飲んでおきなさい」
あなたは白い錠剤を渡される。不安そうなあなたの顔を見て支部長は笑った。
「別に危険なものじゃないわ。主成分はカフェイン。それとごく少量の向精神成分。夜は奴らの領分だから、対抗するために必要なものは摂取しないとね。それとも私がお口あーんと飲ませてあげないとダメかしら」
あなたは急いで薬を飲み下す。それを見て支部長は満足そうに頷いた。
「あなたの任務はあくまで偵察よ。無理してヒーローになることはないわ。そもそも、まだ疑いの段階だし、確実にそこが奴らの住処かどうかもわからないのだから」
あなたは肩をすくめて不同意を示す。諸事慎重な組織だったが、これだけの費用をかけてはるばる日本からエージェントを呼び寄せている。ある程度の高い蓋然性はあると考えているはずだった。
「まあ、いいでしょう。ただ、あなたの偽装は忘れないでね。あなたは仕事に来たついでにイギリスの珍しい物を見つけにフラフラしている日本人ツーリストなのだから。ちょっといい景色があったら写真を撮るのを忘れないこと」
支部長は大きめのレンズの付いたカメラを渡す。
「ステレオタイプだけども、そのイメージを利用しない手はないでしょう。遠くから望遠で撮影できるし、赤外線撮影モードもついているわ。さあ、そろそろ着替えて駅へ出かけないと、あなたの国と違って1時間に1本ぐらいだから。最後に、くどいけれども一般人を誤って殺傷することは絶対にしないこと。この国の刑務所の食事は絶望的にマズいわよ」
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https://kakuyomu.jp/works/1177354054890935249/episodes/1177354054890935654
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