3

 放課後、誰も居ない教室に女子からの呼び出し――といえば否が応でもそういうシチュエーションが連想されるものだ。

……状況が違いすぎる。結論からいえば、厄介事の臭いが充満している。

 しかし無碍にもできないし……。ああもう、変に律儀なトコあるよな僕――。

「……失礼します」


――空き教室の扉を開けるとねこみみ幼女があった(しっぽ付き)。


「あ――江入えーりくん、にゃっほー」

――ひらひらと 手をふるねこみみ 幼女かな。

「ありがとね。きゅーな約束なのに、こころよくおっけーしてくれて。……ささ、かけつけ一杯」

 ねこみみ(+しっぽ)幼女が椅子の上に立って使い捨てコップになみなみと2リットルジュースを注いでいる……。そういう趣味は無いけど、満場一致でこれは――。

「…………かわいい」

「えへへー、褒められるとしっぽがふわっとしちゃうにゃーん」

 特にしっぽ、かわいい。ホントにゃんこのそれ。

「……ん? あ、これね――なんかね、貫通するんだよねぇ」

「!?」

「ほらほら、しゅんしゅんっ」

 3Dモデルみたいだ……。手の平容易く当たり判定通り抜けてるゼロか

江入えーりくんもやってみにゃー」

「え、あ、うん」

 しまった、ぼーっと見てたらつい返事を……。

 いや、でも好奇心(+溢れるもふみ)には抗えない――!

「……あれ」

……好奇心は猫を殺す、という言葉がとっさに浮かんだ。

「あれ? 掴んだ……にゃんで?」

 いや、この場合は蘇生なのか……?

「……おおっ、なにやらめいっぱいふにふにされる感覚っ」

「――あ、ごめん」

 やばい、無心で触ってた。危ない(人として)。

「それよりそれより、もっと気になることって無いのかにゃ?」

 気になること――。

「……他の猫要素って」

「そっち? ……例えば?」

「そうだな――」

 少々漫画フィクションじみてはいるが――(そもそも漫画じみた現象ではあるが)。

「身体能力が上がったりとか」

「ないねぇ」

「動くものに反応しちゃうとか」

「普通だねぇ」

「昼寝がしたくてたまらないとか」

「ここまで至ってぱっちりだにゃー」

「……猫舌になったりとか」

「朝はアツアツめだまやきトーストだったよ」

「あとは……えーっと、魚が食べたくなったりとか?」

「うーん……ハンバーグに軍配かなあ。『さわやか』のやつ……」

「『さわやか』かぁ……」

 静岡は遠いよなぁ……。――じゃなくて!

「マジで耳としっぽだけ?」

「マジにみみとしっぽだけです」

 かわいい。ぴこって耳が。ふにょんってしっぽが。

……にしても、耳としっぽにステータス全振り状態なのか。だからこそ実現した可愛さなのか?

「……ほんとに気にしてないんだね? ――ほらほら、よく見て」

 よく見て、と言われても――。

「身長、しーんーちょー。ちっちゃくない?」

「……ああ」

 なんかこう、馴染みすぎてて自然と受け入れてたな……。

「ねこちゃん、すごく好きなんだねぇ……」

「うん」

「即答だね? えーっと、おほんっ」

 咳払いに合わせてぴくっと動くねこみみ、プライスレス。

閑話休題かんわきゅーだい。なんかね? この状況――客観的に見てどうかなーって。気付くこと。分析とか、そういうの……頼めないかな?」

「……自分じゃ駄目なの?」

 泣く子も黙るハイスペック美少女様なら自己分析の一つや二つ、という気がするんだが。

「なんかねぇ、深刻モードになれないんだよねぇ……。江入えーりくん――ほら、みんなより落ち着いてること多いでしょ?」

「……少しヒネてるだけだよ」

……あんまり周りに乗り切れないというか、つい冷めた目で見てしまうというか。

「そうなの? ……うーん、でもね、わたしの第六感がびびーって知らせてるんだよねぇ。この事件は江入えーりくんが鍵だ、って。……今のわたしじゃここまでが限界」

……へにょっと下がった耳としっぽがとてもかわ――危ねっ!

「えっと――分析とかは自信無いけど、……心当たりは、偶然」

「ほんとー!?」

復活したかわいい……」

――駄目だ、ジュース飲もう。頭リセット。

「……親戚にお医者やってる叔父さんがいるんだ」

「ほうほう」

 しっぽ――……ちょっと下向いてよう。気が逸れるといかん。

「珍しい病気にも詳しいから――もしかしたら、なにか分かるかも。……怪奇現象とかでも多分、心当たりは出してくれる」

 便利な人脈もあったものだ。

「……わたしがモルモットに突然変異めたもるふぉーしちゃう可能性はあるのかにゃあ」

……実験動物にされる、という意味で合っているだろうか。

「……少なくとも合意は取るんじゃないかな」

「だよねぇ。……で、いつ尋ねに行くのかにゃ? 土日、それとも――」

「すぐ。隣町まで押しかける。……今日診察とか無いはずだし。とりあえず連絡してみて――いいよね」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る