4

「言うなれば――」

――固唾を呑む音、二人分。






「――急性ねこみみ症候群、だね」





「………………」

「………………」


そ ん な ふ ざ け た

病 名 が あ る か 。


「うわぁ、怪訝マックス」

「ほんとだ――江入えーりくん大丈夫? しっぽ触る?」

ふにふにふにふにふにふにふに……

「お、少し落ち着くかな。話続けるよ?」

「あ、はぁい」

ふにふにふにふにふにふに……

「ぶっちゃけ医学では説明不可能な現象です」

ふにふにふにふに……

「……ですが、超常現象オカルトとしてなら説明可能――ってか納得いく説明にはならないかもだけど、いいかい?」

「お願いしまーす」

ふにふにふに………

「簡単に言うとね、――残留思念のアレ的なソレだね」

ふにふ………………………

「めちゃくちゃファジー!!!」

 しっぽの感触がアレ的な入ってこないがソレとは!!?

「曖昧もこもこですねぇ」

「モコリンコだねぇ」

 二人とも「ねー」じゃないが!!?

「……さっちゃんは納得していないようだね?」

 さっちゃん言うな僕の名は朔だが

「――では、直球になるけど……佐東さん、

――最近、仔猫の『死』に関わったかな」


「いえ、特には……」

「…………それ、僕だ」


「おや」

「――あ」

 思い当たりが生じたのだろう。……彼女はとても聡明だから。

「……にゃんこ、保護してて、……良くならなくて、……昨日、埋めてきた。……帰りに――偶然、佐東に会った」

 挨拶を交わして、泣いて枯れた声は『風邪』で誤魔化して。

……この反応じゃ、腫れた目元も見られていたんだろうな。

「……ひとまず、さっちゃんの心のケアは置いといて」

「ヤブ医者……」

……変に同情を示されるよりは幾分マシかもだが。

「……江入えーりくん、――ほらほら、しっぽ」

ふにふにふにふにふにふに……

「……ほらアレ、誰かが座った後の椅子ってあったかいでしょ? その熱みたいなもの――で、伝わるかな?」

「……子ねこちゃんの熱?」

……ふにふにふにふに

「うん。幽霊――まではいかないけど……なんだろうね。――まあ、さっちゃんはよくやったってことだよ」

……ふにふにふにふに

「えっと――あの、なんで江入えーりくんじゃなくてわたしが……?」

「うーん、なにかの拍子にスッと入れ替わっちゃったのかもね。……さっちゃん立ち去るとき、急に駆け出したりしてたかい?」

「……してました。……子ねこちゃん――熱ですけど、……置いてかれちゃったんですね」

ふに…………

「……見失ってしまったから、さっちゃんの匂いがすると関わりのある佐東さんにくっついたんだろうね。……なんだろう、毎日席が隣だとか?」

「あ、はい。……なるほど、半年の積み重ねだぁ。……えっと、身長も――子ねこちゃんに引っ張られた、みたいなことですか?」

……ふにふに

「そうだね。わりかしシュレディンガーな状態かな」


――待て。

今『シュレディンガー』と聞こえたんだが――!

「……大丈夫だよ? 佐東さんはちゃんと生きてるから、明らかに半々・・じゃない。観測者ぼくたちのメガネが少し曇ってるだけだよ。さっちゃんは……なんだろう、ちょっとバグってる?」

 結構な罵倒表現だと思うんだが。

「それで、肝心の治療法だけど……」

「……江入えーりくんに『ごろにゃん』するとか?」

 いやいやそんなまさかまさか。

「えー…………ズバリ『放置』。以上っ」

「ほうち」「放置」

 いやいやいや。

「誰かが座った後の椅子、わざわざ冷やす?」

「しないですねぇ」「しないけども」

「でしょ? よほど佐東さんが困っていたら別だけど」

「ないですねぇ」「無さそうだけども」

「三日くらいで引くんじゃないかな? まあ、なにかあればまた連絡して――ってことで」

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