第17話 出会い、という新展開への布石

 色々あって大変だった日の翌日、俺とシレーネちゃんはハンターギルドへと来ていた。

 

 ケルマが調査をして欲しいという人物の一人目、ライコウというハンターと一緒に行動するためだ。

 

 「あの人に聞けばいいのかな?」

 「そうですね、聞いてみましょう」

 

 建物に入ってすぐに奥の方の受け付けに鉄面皮こと眼鏡の中年男を見つけて、そちらへと歩み寄っていく。

 

 常に、という訳ではないけれど、あのハンター用受け付けには彼がいることが多い。

 

 「おはようございます、ミカ様、シレーネさん。所長から話は聞いています」

 

 軽く会釈をしながらそういわれる。

 

 そして名前を呼ばれたのが聞こえていたらしく、建物内にいた他のハンターたちの大半がこちらを凝視したり、何事かささやきあったりとし始める。

 

 「ふふん」

 

 俺たちが、というより俺がここでは畏敬のこもった目で見られることに満足したのか、シレーネちゃんは鼻から盛大に息を吹いている。

 

 「代表会議のケルマ様からの依頼で、街周辺の調査ですね。案内役も手配していますので……、あちらのライコウさんです」

 

 今回の内偵調査については、依頼主のケルマとアポタミアハンターギルド所長のキニゴスしか実際の事情は知らないはずだ。

 

 受け付けの眼鏡男の言い方からしても、キニゴスはうまく伝えてくれているようだ。なので俺たちもライコウというハンターの名前をいかにも今聞いたという風に振舞っておく。

 

 「あんたがライコウって人? どうも、俺は……」

 

 近づいてきていた小柄で黄色味の強い金髪の人物に話しかけようとしたところで、手をあげて制される。

 

 短く切りそろえられた髪型がよく似合うそいつは性別不詳のその中性的な顔を挑戦的な笑みに歪めているけど、十代半ばくらいのやや幼い容姿故か感じの悪さはなく“やんちゃ”といった印象だ。

 

 「知ってるよ! 話題の超強い神職ミカさんに、その従者の天術使いシレーネだろ? 組むって聞かされてから会うのを楽しみにしてたんだっ!」

 

 鈴を鳴らすような可愛らしい声から、どうやら少女だったようだ。

 

 「で、ボクがライコウ! 名前の響きで分かるだろうけど、多分エディーの出身なんだ。お二人はボクのこと知ってたりしない?」

 「は? どういうことだ? 多分とか……」

 

 快活にやや大きすぎる声で自己紹介されたけど言っていることがおかしい。まるで自分のことを知らないような言い方だ。

 

 「うん、ボクは記憶喪失でね。名前くらいしか覚えてないんだ。ミカさんはエディーの人だって聞いたからもしかしたらって思ってね」

 「ごめんなさい、私たちはちょっと、世間知らずなところがあるので……、あなたのことも分からないです」

 

 シレーネちゃんがした返事は適当なものだ、何せそもそもエディー出身なんてのが嘘なわけだし。

 

 とはいえ交通網や情報網が発達しているわけでもないこの世界でそうそうばれるとも思えないし、例えばれたとしてもその時はその時だ。

 

 「そっかぁー、まあいいよ。そんなことよりいこっか!」

 「お、おう」

 

 わりと重い身の上話のようにも思うのだけど、記憶に関してはこのライコウは気にもしていないようだ。

 

 あるいはそう振舞っているだけかもしれないけど、なぜかこの子は本心から気にしていないような気がした。

 

 何にしても、このライコウについては記憶喪失、というのがケルマにリストアップされていた理由なのだろう。要は経歴も身元も不明ということなんだし。

 

 「変わった人……、ですけど悪い人ではなさそう、ですね」

 「ま、一週間はあるんだし、それはゆっくり判断すればいいって」

 

 とはいえ、俺もシレーネちゃんと同じく、出会ったばかりのライコウは後ろ暗いところなんてないと半ば確信していた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る