第41話 まだ照らすべきものが
「灯護先輩っ!」
洞窟へ駆け込んだ恭佳が声高く叫んで灯護へ駆け寄る。
やっとのことでここまでたどり着いた彼女は泥と傷にまみれていた。唯花の仕掛けた迎撃魔術をかいくぐってやったのことでここに来たのだ。
新井達は湖のほうへ向かっている。恭佳が負傷したのと、この場には新井達は入れないこともあって、彼女はここへ行くよう任命されたのだ。
青い洞窟の中は静かで、動くものは何もない。岩や氷の息遣いが聞こえてきそうなほど静かだった。
ここで戦闘が行われたのが嘘のようだ。
岩場に背中を預けている彼は、意識はないものの衣服に傷があるだけで怪我はない。が、魔術という存在がある以上外傷がない程度で安心はできない。
さらなる診断をしようと腰のポーチに手を走らせたところで、彼の表情が動く。
「う……」
「灯護先輩!大丈夫ですか⁉」
小さく頷くと、少年は薄く目をあげ周囲に目を巡らす。
極度に疲労はしているが、命に別状はないように見受けらる。恭佳は安堵の息を漏らした。
灯護が小さく口を開く。
「……く、……てい……」
「え……?」
握られた手に力が込められる。弱弱しいのに、不思議とそこから彼の強い意志を感じる。
恭佳は手を握り返す。
ここに至っても、まだ彼はなにかするつもりなのか。まだ、こんな風になってまでも……。
「いそ……な……」
恭佳は大きく頷くと、彼の腕を肩に回した。
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