第1話 共鳴色彩
人は他者から自立することはできない。
友達が楽しそうにやっていたから、自分も興味を持った。親が批判するから興味を失った。その逆もまたしかり。無意識レベルにまで言及すれば、他者の影響を受けない人間はいない。
が、だとしても、その点に関して少年・
新緑が目立ち始める五月。衣替えを数週間後に控えた私立栄方高校の生徒たちは、ようやく新しいクラスに馴染みはじめていた。
高校生活をようやく一周終えたばかりの二年生は、早くも二回目の五月の空気に慣れ、日が傾き始めた放課後の教室にて、それぞれのことをしている。
そんな空気の中で、二年六組窓際最後列の席に彼はいた。
彼の周りには人だかりができている。
というのも、
「灯護!頼むよ。
「お願い!手芸部のほう手伝って!展覧会近いけど間に合いそうになくて……。灯護くん器用でしょ?」
「いやいやうちの部を!」
ほとんどが彼に頼ろうとするものたちなのだが。クラスメイトはおろか、明らかに学年の違うものまで来ている始末だ。
そして当の本人はというと。
「えっと……その……」
わかりやすいほどに困っていた。
少し長めの黒髪に、気弱そうな顔つき。いかにも草食系男子を絵に描いたような見た目をしている。
彼は他の部活動に所属しているわけではないが、この後帰らなければならない用事がある。それを言えばもちろんクラスメイトは(そうでない人も)退散してくれるだろう。
でもそれが言えない。
そもそもここでそう言えていたら、今このような状況になっていない。
彼は生来の断り下手なのだ。
頼まれたことを断れず、なんでも引き受けてしまう。しかも、その頼みごとを結構な水準でこなせてしまうのだから、引く手数多になるのも当然である。そして、そんな状況になってもやっぱり断れないので、なんでも引き受けていくうちに無駄に人望と信頼が厚くなり、さらに頼まれごとされるようになる。
そんな負と言っていいのか正と言っていいのかわからない連鎖の中に彼はいるのだった。
(い、いい加減断ち切らないと……!今日こそは断るぞ!)
意を決し周囲の生徒たちに向き直る。
が、もはや灯護の中には彼らの感情が混ざっている。
ああ、これはダメだと思うもどうしようもない。
信頼していること、本当に困っていること、灯護を頼りにしていること、それらの感情が混ざり、一つになって灯護の感情と溶け合う。
結果どこからが自分の感情でどこまでが他人の感情なのかもわからなくなり、灯護自身も彼らと同じ感情になってしまう。
そして、
「ま、任せてよ!なんとかやってみるから!」
周囲の感情の色が喜色になったことを、灯護は自身の感情の変化で感じ取るのだった。
そのとき、彼の視界の端に揺らめく長い髪が映る。
ちょうど教室を出ていったのは、隣の席にいた少女。
たしか名前は
灯護は、彼女が出ていく直前、自身の感情を通して彼女から僅から不快感を感じ取っていた。
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