第6話 ゾンビ
「ダイジョウブデスカ?」
キヨは、自分にぶつかったせいで、ひっくり返るような体勢で尻餅をついてしまった男に声をかけた。声をかけられた男は、しばらく呆然とした様子でこちらに顔を向けていたので、彼女は手を貸して立ち上がらせてやることにする。
引き上げられ、ようやく立ち上がることができた男は、弾かれたような勢いで声を上げた。
「うわあああああっ!!」
悲鳴のような声を出し、すがりつくかのように男は、キヨへと掴みかかってくる。口をぱくぱくと動かしてはいるが、言葉にはならないようだった。
常人が見れば、異様という他ない男に対峙した人造人間は、淡々とした声で先程と同じ言葉を繰り返した。
「ダイジョウブデスカ?」
言葉とは裏腹に、さして心配そうな様子が感じられない彼女の様子に、男の方も拍子が抜けたのか、あるいは、単に一息ついて落ち着いただけなのか、ようやく言葉らしい言葉を口から発することができた。
「人が、人が襲われているんだ!! しかも、ただ襲われてるだけじゃない。あれは・・・・・・」
男はそこまで言うと、少し悩むような顔をして押し黙った。
「何ニ襲ワレテイルノデスカ?」
男の言葉にも動揺した様子もない彼女は、落ち着き払った声で疑問を投げかけた。
「・・・・・・人だと思う」
そこで何か思い出した様に、男は己の持った携帯を確認した。
「圏外だ。・・・・・・さっきまではつながっていたのに。これじゃ警察に連絡もできやしない」
黙って男の傍らに佇んでいたキヨは、男が怪我をしておらず、平静さも取り戻した様子であることから、男へと声をかけた。
「・・・・・・アノ」
「ん? ああ、何かな?」
「私ハ、用事ガアリマスノデ、コレデ失礼シマス」
ぺこりと頭を下げると、彼女は男から離れるように歩き出した。主人に頼まれている雑貨を買うという使命が彼女にはあった。
しかし、男は慌てて彼女を呼び止めた。
「ちょっと待ってくれ!」
「ナンデショウ?」
「話を聞いていなかったのか? 人が襲われてるんだ。単独行動は危険じゃないか!」
「問題アリマセン」
動揺した様子もない彼女に、男は呆れたようにため息をついた。
「君はアレを知らないからそんなことが言えるんだ!」
「馬鹿げていると笑うかもしれないが、まるでホラー映画の怪物やゾンビみたいに人を襲っているんだ。しっかり確認した訳じゃないが、人に喰らいついていたんだぞ。普通じゃない!!」
鬼気迫る男の言葉に、キヨも少しだけ考えた様子だったが、結局、彼女の返答は変わらなかった。
「問題アリマセン」
男は頭を抱えてうずくまってしまった。
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