第3話 道端の石ころ
赤土の塊と思われた小石はどうも、単に赤土で表面が覆われていただけだったらしい。転がった衝撃か、表面の土がとれた石は、ほのかな透明感のある鮮やかな赤い色をしていることが分かる。
磤馭慮にはそれが、赤色系のガーネット、あるいはルビーのような宝石とされる鉱物のように思えた。未確認生物や、それを追った人造人間のキヨから置いてきぼりにされることも構わずに、慌てて近くにある、少し大きめの転石を拾い上げて表面を擦ってみる。
先程の小石と同じように、赤土の下から、美しい赤色が顔を出した。
「・・・・・・まさか、赤土の下は皆、この鉱物というわけではあるまいな」
恐る恐る、半ば確信めいたものを感じながら地面の赤土をゆっくりと撫でた結果は、磤馭慮の想像通りだった。手に取った石と同じように、赤土に覆われた地面はすべて鉱物の結晶であるらしい。
「こ、これは、えらいことじゃ・・・・・・。おキヨ! おキヨ~!」
磤馭慮は、キヨを追いかけるべく、ようやく走り出した。
一方のキヨも、困った状況になっていた。
未確認生物の逃げた先には、どうも未確認生物の集落の様なものがあったらしく、巨岩に穴を開けた、これまた人間で言うところの、住居の様なものが立ち並び、大小様々な大きさの未確認生物そっくりの生き物達がその場にはいた。
「◎×■●×!」
「●●・□×○!」
未確認生物達の方も突然やって来たキヨに驚いているらしく、なにやら囁き合っているが、そもそも人間と同じような思考形態をしているのかもよく分からないので、その行動が人間の行動様式に当てはめてよいものかどうなのかも、キヨには判断がつかなかった。
加えて、キヨが対処を命じられたのは、最初に石を放り投げてきた個体についてだが、こうも、うじゃうじゃと仲間のいるところに逃げられては、対処しようにも無関係の個体まで傷つける事になりかねない。果たしてそれが主人の意向に沿う行動なのかも分からないので、下手に動けないのだ。
「○□×・○・■!」
「■×◎・・△▼!」
時々、何匹かの未確認生物から石を投げられるが、それが当たったところで、人造人間のキヨには痛くも痒くもないのである。むしろもっと攻撃的であれば沈静化するために動こうかとも思うのだが、如何せん脅威の度合いが低すぎて、自律思考の人造人間はどう対応すべきなのか決めかねていた。
本来であれば、直ぐさま己の主人に確認するところだが、生憎と主人とは離れてしまった。そんなこんなで、しばらく、未確認生物達と人造人間のキヨの対峙が続くことになったのだった。
「おーい! おキヨー! おーい!」
そんな状況を打ち破るように、磤馭慮が追いついてきた。
よほど急いできたのか、息も絶え絶えである。
「ダイジョウブデスカ? 御主人サマ」
心配するおキヨを手で制し、磤馭慮は大きく息を吐いた。
「おキヨ! 大変じゃ! ぼやぼやしてられんぞ!」
「? ドウシマシタカ」
「ここの赤土の正体じゃが・・・・・・うん?」
鉱石のことで頭が一杯だった磤馭慮にとって、その場でキヨと対峙していた未確認生物達の処遇など、もはや、どうでも良いことであった。不注意とも言えるが彼は未確認生物をそれほど脅威とは感じていなかったし、実際に未確認生物達は危害を加えてくることはなかったので問題もなかった。
言ってしまえば、道端の石ころほどの興味もないので、そのまま無視して鉱物採取にキヨと共に出かけてしまうつもりですらいた。
しかし、未確認生物達の住処とみられる場所に大きな石の塊がごろごろとうち捨てられている事に気がついた磤馭慮は、地道に鉱物を取るよりもすでにある程度、堀取られた塊を持って帰る方が楽だろうという考えに至ったのである。
ただ、未確認生物達が簡単に石の塊を渡してくれるのだろうかという疑問もあった。家を作る際に削り取られた石をそのまま捨てているようにも思えたが、しかし、何らかの意味があって石を放置していた場合、抵抗される可能性もある。
「うーむ、文化らしきものはありそうじゃが、いかんせん意思の疎通がなぁ・・・・・・かといって力でぶんどるというのも、芸がないしのう」
今では石を投げるのすらもやめて、こちらを遠巻きに窺っているだけの未確認生物達を、積極的に蹂躙して、目当ての物を奪い去ってやろうというほど磤馭慮は外道ではない。
「見たところあまり豊かというわけでもなさそうじゃしの。道中の供にと用意してあった食い物でも渡してやれば、なんとかなるかもしれんの」
「ハイ、御主人サマ」
磤馭慮とキヨの二人は、一度転移マシンへと戻ることにした。
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