第2話 未知との遭遇

 磤馭慮おのごろが意識を取り戻すと、こちらをのぞき込んでいたらしい人造人間のキヨが声をかけてきた。


「ダイジョウブデスカ? 御主人サマ」


 どうやら、二人とも無事だったらしい。

 しかし一体全体、何が起こったのか。辺りを確認しても、赤土で覆われた荒野が広がるばかりで、さっぱり理解できない。

 空は暗く、出ている星はやたらと大きく、異様な雰囲気をしていた。


「なんじゃ、ありゃ、衛星かなにかか? それにしても・・・・・・ひい、ふう、み、・・・・・・やたらと数も多い。どこじゃここは。マシンでの転移は成功したのか?」


「ワカリマセン。御主人サマ」


 周囲の確認の際に、割と近くに転移マシンがあることが確認できて、磤馭慮はひとまず胸をなで下ろす。手も付けられないほどに大破しているという様子もないので、衝撃で外に放り出されたということでもないのだろう。


「とすると、おキヨが儂をマシンの外に出したのか?」


「ハイ、御主人サマ。外ノ危険ガ少ナイ事ハ確認シマシタ。介抱ニハ広イ所ガヨイト判断シマシタ」


 言われてみれば、磤馭慮が万が一のためと着ていた防護服もいつの間にか脱がされていた。危険はないと判断した人造人間のキヨが、彼の介抱のために取り払ったのだろう。確かにあんな暑苦しいものを付けていては、意識の覚醒も妨げられてしまう。


「おー、そうかそうか。さすがは儂の最高傑作の一つ。えらいぞ、おキヨ! ぐわっはっはっは」


「アリガトウゴザイマス。御主人サマ」


 高度な人造人間の自律思考に感嘆したのか、それを生み出した自分自身の事で彼が一人悦に入っているのかは分からないが、高笑いをあげる磤馭慮。


「・・・・・・それにしても、どこか地球上の僻地、というわけでもなさそうだが、驚くほどに違和感も問題もないのう」


「ハイ、御主人サマ」


 防護服なしでも、身体の動きに違和感がなく、呼吸の問題もなかった。問題は全くない。しかし、一面赤土の荒野が広がっているばかりで、有益なものも何一つとしてなさそうだった。


「うーむ、転移の成功は良いにしても、楽に金策できる場所でもなさそうじゃわい」


 そうして、足下に転がっていた赤土の塊をもてあそびながら、今後の方針を考えていた時、磤馭慮達は遠方に人影があることに気がついた。

 と言っても、その姿はやたら頭が大きく腕も細長い異形である。明らかに人間ではない。そんな気味の悪い生き物がゆっくりとこちら側に近づいてきている事態に磤馭慮も思わず顔をこわばらせた。


「よいか、おキヨ。少しでも妙な動きをしたら、やってしまって良いからな。攻撃こそ最大の防御じゃ!」


「ハイ、御主人サマ」


 稀代の発明家にして大魔法使いである磤馭慮の最高傑作の一つ、人造人間は単なる飯炊き人形ではない。たとえ、未知の場所で、異形の未確認生物が襲ってきたとしても、問題にならない能力を有しているのである。


 ゆっくりと近づいてきた未確認生物は、ほとんど人と変わらないような大きさであり、人間と同じような完全な直立二足歩行を行っていた。ただ、大きな頭部と異様に細長い腕、両生類の様な光沢のある表皮を持った姿は、怪物と呼んで差し支えないものだ。

 

「○△・□■◎×!」


 突如、怪物は声を発すると、細長い腕で地面に転がる小石を磤馭慮達に向け、放り投げてきた。しかし、小石は、磤馭慮を庇うように前に立っていた人造人間のキヨに当たって、あっけなく弾かれた。

 怪物の投石は、端から見るとひどく貧弱で不格好なものだったが、当の本人は、強力な兵器がまるで効かない怪獣を相手にしたかのような、ひどいうろたえ方をしている。


「ぐわはははは、偉大なる発明家であるこの磤馭慮の傑作、人造人間に勝てるとでも思ったか! やれぃ、おキヨ!」


「ハイ、御主人サマ」


 慌てて逃げようとする未確認生物をぶちのめすべく、人造人間のキヨは走り始める。磤馭慮もそれに続こうとするが、ふとした拍子に、先程投げられた石を確認し、驚愕することになった。






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