戦いの後
悪魔との戦いが終わり、私達は一度日常に戻った。
エリザさん、ミラさんとともに家で過ごし、掃除や料理をして、ゆっくり話をして。壮絶な戦いの後でみんな疲れていたので、戦闘訓練も魔法の練習も数日お休みになった。
家に帰った後のエリザさんは、
「明日は起こさなくていいから。自然に起きるまで寝かせて」
と宣言し、ほぼ丸一日眠り続けた。
ミラさんは悪魔がいなくなったことで、以前より元気が出たように見える。でも皆に迷惑をかけたと気にしているらしい。ふとした時にぼーっとしていたり、突然私やエリザさんに謝ったりしている。
そんな日々を過ごして三日経ったある日、リードから手紙が届いた。
「皆さんにお話があります。先日の一件の事後処理と、ルカさんのことについて」
エリザさんはそれを見てため息をついた。
「私のことって、何でしょうか」
「協会への登録でしょうね。さすがに悪魔と戦った魔法使いを放っておくことは出来ないってことよ」
それからはまた慌ただしかった。
まずミラさんが一足先に協会本部へ向かった。関係者の中でも、悪魔に取り憑かれて長い時間を過ごしたミラさんには聞きたいことが山ほどあるそうだ。
私とエリザさんはそれを見送ってから旅支度を始めた。移動はエリザさんの転移で済むので一瞬だが、今回は悪魔の件と登録の件で長くなるだろうと言われたのだ。
数日がかりの旅なんて初めてなので準備に手間取ってしまった。あれもこれもと考えているうちに大荷物になって、エリザさんに減らされた。
そんなやり取りをして、協会から指定された日になった。
協会についてからも忙しい日々だった。
数日ぶりにあーちゃんやフレイさんと再会したが、すぐに協会の人達に悪魔の件についての報告が始まって、ろくに話もできなかった。
基本的にはミラさんが先に話した内容の確認であり、受け答えはほとんどフレイさんとエリザさんが対応した。悪魔に連れ去られた間のことだけは私しか知らないので自分で話すことになり、緊張でしどろもどろになりながらなんとか伝えることができた。
ちなみに、その話をした時にはエリザさんの額に青筋が浮かんでいた。
「あの悪魔、そんなことしてたのね。もっと痛めつければよかった」
「だ、大丈夫ですから。落ち着いてください」
私がエリザさんをなだめると、協会の人達は不思議なものを見るような目で私を見ていた。
後からリードに聞いた話では、協会にはフレイさん以外、エリザさんと普通に話す人はいないらしい。大抵恐れているか煙たがっているかのどちらかだとか。
そんなエリザさんが数年ぶりに弟子を取ったということで、協会本部の中は私の話題で持ちきりだった。
報告が終わってリードやあーちゃんと本部の中を歩いていると、遠巻きに眺めている人や話しかけてくる人が多くて余計に疲れた。
「エリザさんってどんな指導してくれるの?」
「普段はどんな感じなの。怖くない?」
「いじめられたらうちに移ってもいいんだよ」
皆さん優しくて、私を心配してくれているのは伝わったが、エリザさんの性格についてはずいぶん勘違いしているようだ。
「前に聞いていたけど、本当に怖がられてるんだね……」
「実際、ルカが一緒に暮らす前までは怖かったそうよ。ミラさんが出て行った後はすごく荒れてたって師匠が言ってた。さすがにその時は見かけても声かけられなかったって」
「そうですね。僕もその頃何度か見たことはありましたが、その……、今とはずいぶん違いました」
でも、二人やフレイさんも今は普通に接している。こういうふうに分かる人だけ分かってくれればそれでいい、とも思う。
無理に皆に好かれなくても、私はエリザさんのことが好きだし、尊敬している。一緒にいる時間が長くなるほど憧れる気持ちも大きくなっている。
二日間に渡った報告が終わって、私の魔法協会への登録は明日になった。
私とエリザさんは、協会が借りている宿屋でベッドに腰掛けながら話をしていた。
「本当に明日一人でいいの?」
「はい。もう魔法文字も書けるようになりました」
「でも、まだ家まで転移はできないでしょう」
不安そうに私に言う。やっぱりエリザさんは優しい。なんで他の人達には伝わらないんだろう。
「エリザさん。一つだけ、我が儘を言っていいですか?」
私は姿勢を正してエリザさんに尋ねる。大事な話だと伝わったみたいで、エリザさんも真面目な顔で聞いてくれた。
私が自分の思いを伝えると、エリザさんはしばらく黙っていた。でも、最後には笑って、
「分かったわ。あなたの好きなようにしなさい」
と言った。
その翌日、魔法協会に登録をして、正式に魔法使いとなった。
そして、私は生まれ育った村へ帰った。
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