魔法使いの作戦
岩の化け物、ゴーレムを魔法で粉々に砕いて辺りが静まり返る。
「これで終わりね」
「やっぱ逃げられちまったな」
ミラとルカの姿はとっくに消えていた。周囲にあるのは積み上げられた岩の残骸だけだ。
出来ればこの場で終わらせたかったが、さすがにそう上手くはいかなかった。
「いいわよ。それを見越してあいつに向こうへ行かせたんだから」
「まあな。むしろここで全力出された方がやばかったか」
ルカを危険な目に合わせたくはなかったので最後まで悩んだが、一番成功率が高いのがこの展開だ。
家の中では私以外魔法が使えないようにしてある。だからあまり出歩かないように言いつけて、悪魔に付け入る隙を与えないようにしていた。念のために寝るときも防御魔法を仕掛けたバスローブを着たし、ルカの服にもこっそり同じ魔法をかけておいた。
基本的にはミラの人格が主体となっていたが、裏では悪魔が苛立ちを溜めていたことだろう。
そこで今夜、わざと家を空けることを伝えて悪魔が動くきっかけを作った。ちょうど新月だし、悪魔が行動を起こすにはおあつらえ向きだ。
「ガーディはちゃんとルカについてる?」
「ああ。転移するときに一緒にいるのは確認した」
「じゃあ、あとは……」
周囲を見渡してあるものを探す。それはゴーレムの残骸の山のそばにいた。
甲羅を掴んで持ち上げると気弱そうな声をあげる。
「もうちょっと丁寧に持ってくださいよー」
「いいから、フレイに繋ぎなさい」
私が掴んだ亀はフレイの使い魔だ。
使い魔は、離れていても召喚した魔法使いと連絡を取り合う事が出来る。ただし召喚した魔法使い以外とは普通に会話するしかない。私とガーディや、ルカとレイヴンは口で話さないといけない。
だがフレイの使い魔である亀だけは特殊で、一度話した相手なら誰とでも思考を送受信することができる。さらに、仲介役となって離れた人同士で会話させることも可能だ。
「はーい。こちらフレイ」
「悪魔がそっちへ向かったわ。確認出来た?」
「姿は見えなかったけど上の方に明かりがついたから、戻ってきたと思うわ。直接中に飛んだんでしょうね」
想定通りだ。フレイはミラと再会したあの塔の近くに待機させている。悪魔が一度撤退するならそこだろうと思っていた。私達が盗賊団を倒した時は罠をほとんど無視した形で進んだので、まだ何か仕掛けが残っているに違いない。あれ以降ミラはずっと家にいたが、今戻ったことでさらに何か増やすことも考えられる。フレイにはそれを見極めてもらうために先回りさせたのだ。
「でも塔から出てくる気配はないわねー。そっちではどうだったの?」
「ゴーレムを山ほど出してくれたわ。時間稼ぎのつもりでしょうけど、また同じ数出されたら私やあんたじゃなきゃ荷が重いかもね」
あの悪魔の実力が分かればもう少し攻め方も考えられるのだが、情報がなさすぎる。直接的な戦闘力が低いなら私とフレイが露払いに徹してルカ達をぶつけるという手もある。逆に大量のゴーレムより強いならルカを助けたら一度撤退、私とフレイで再度攻め込む。
やはり後者でいくしかないか。フレイも同じ結論のようだ。
「了解。じゃあ子ども達は帰らせるわ」
「はっ? 連れて行ってるの?」
後ろで小さくアーシャとリードの声が聞こえる。何か抗議しているような口調だ。
何のために訓練を無しにして二人を早く帰らせたと思っているのだ。あの悪魔が二人を狙うことはないのだから、危険が及ぶことはないはずだったのに。今になって帰れと言われても、はいそうですかとはならないだろう。
案の定漏れ聞こえてくる声は、役に立ちたいとか助けたいとか、そんな言葉だ。
「とにかく、私もすぐそっちに行くから待ってなさい。勝手に動くんじゃないわよ」
せっかく私が何日も時間をかけて慎重に動いたというのに、台無しじゃないか。
亀は連絡の仲介を終えてまた気弱そうに私とレイヴンを交互に見ている。レイヴンは転移に備えて私の肩に飛び乗った。
「結局いつもの出たとこ勝負かよ」
「うるさい。今回は私のせいじゃないわよ」
とりあえず向こうに行って、フレイを一発殴る。作戦の立て直しはそれからだ。
私は二匹の使い魔を連れて悪魔の待つ塔の方へ転移した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます