使い魔召喚
「ただいま、レイヴン」
「おう、お嬢。それが新しい杖か。なんかあんまり変わんねえな」
新しい杖を持って家に帰り着く。レイヴンは杖を買いに行ったことを知っていたようで、いきなり杖を見て感想を漏らす。
「いいんです。これでもっと上手に魔法使えるように頑張りますから」
「そんなことより、ルカに使い魔について教えてあげて。ルカ、コーヒーを頂戴」
エリザさんは椅子に座って指示を出す。自分で説明する気はなく、コーヒーを受け取って頬杖をついている。
「なんだ、急に杖を新調したと思ったら使い魔を召喚するためか」
「どういうことですか?」
杖と使い魔に何か関係あるのだろうか。レイヴンは、そこからかよ、と呟いて説明を始めた。
「使い魔の召喚も魔法の一つだからな。当然魔法を使うわけだが、自分用の杖を持ってやんねえと良くねえ。そもそも使い魔ってのは、魔法使いを手助けするためのもんだ。だからその魔法使いが出来ねえこと、苦手なことを出来るやつが呼び出される。ここまでは分かるか?」
「えっと、レイヴンは遮断と防御魔法を使うから、エリザさんはそれが苦手ってこと?」
「そうだ。まあそれでもそこらの奴よりは上手いんだが」
レイヴンの説明は意外と分かりやすい。口調は荒いのに丁寧だった。さらに説明を続ける。
「それで、どうやってその魔法使いの苦手なことが分かるかっていうと、杖の情報だ。杖を買いに行ったとき、店の奴が何かしてなかったか」
「あ、そういえばシオンさん、私が使ってた杖を振ったりして何か呟いてました」
「ああ、杖には使われた魔法の情報が蓄積されんだ。使い魔を召喚するときにはその情報が魔法陣に流れる。そうすると自分にぴったり合う使い魔が呼ばれるってわけだ。だがお下がりの杖なんか使ってると余計な情報が入っちまって、いまいち合わねえ奴が出たりすんだよ」
なるほど。それで自分用の杖でなければならないということか。
レイヴンの説明が終わったところでエリザさんが補足する。
「一応言っておくけど、使い魔はみんな烏ってわけじゃないわよ。他の動物ってこともあるし、それ以外もあり得るし」
「それ以外?」
「天使とか悪魔とかな」
「え、天使や悪魔って本当にいるんですか!?」
おとぎ話として聞いたことはある。神の使いである天使と、不幸をもたらす悪魔。でも実際に見た人はいない、と言われている。
「まあ仮に悪魔が出たとしても、使い魔として召喚されれば言うことは聞くはずだから大丈夫よ」
「俺も見たことはないけどな。まあ普通は動物だから安心しろ」
「はあ……」
それなら聞かなきゃよかった。天使のような高尚なものも悪魔のような怖いものもうまく接する自信がない。
揃って外に出て、エリザさんが地面に魔法陣を描く。
家の中でもいいのでは、と思ったが、象やライオンが出たら家が壊れるからと止められた。何が出るかは召喚してみるまで分からない。出てきた瞬間壁や天井を壊される可能性もあるのだ。
「これでよし、と。あとはルカの役目よ」
魔法陣を描き終えたエリザさんが私に言う。私は杖を持って魔法陣に近づいた。
「えっと……、ここからどうしたらいいんですか?」
「特に難しいことはないわ。普通に魔法を使うときと同じように、魔法陣に魔力を流す。必要な分だけ流れたらあとは勝手に進むから」
言われるまま少しずつ魔力を流す。エリザさんもレイヴンも静かに見守っている。
一体何が出てくるだろう。
あまり大きな子が来たら家には入れてあげられないな。レイヴンみたいに烏とかだったらもう一つ鳥籠を用意しなきゃ。
狼は村で襲われてから少し苦手だからやめてほしい。でも犬や猫は好きだから、そうだったら嬉しい。
あ、魚だったらどうしよう。水槽なんて持ってない。出てきていきなり水が無くて息絶えたりしないだろうか。
そこで私は考えを止めた。魔力が満ちたのが感覚で分かった。
魔法陣から空へ光の柱が伸びる。見えないけど光の中に何かがいる。ひとまず召喚は出来たらしい。
ドキドキしながら光が収まるのを待つ。とても長く感じるが実際には五秒くらいか。
やがて光が消えた。魔法陣の中心にいる何かが目で確認できるようになった。
「え」
「あら」
「マジか」
その姿を見て三人とも固まった。
現れたそれは、私の知っている動物の姿をしてはいなかった。だが聞いたことはある。一般的な烏の大きさをしているレイヴンより一回り小さいが、特徴は聞いたまんまだ。
人間のような四肢と頭を持った体。黒い皮膚。二本の角。
確認のためにエリザさんとレイヴンを見る。二人とも困った顔をして頷いている。間違いない。今まで使い魔として現れたのは見たことない、という話はなんだったんだ。
「悪魔……」
私の使い魔は悪魔だった。
悪魔は声に反応して私の方を向く。召喚したときから宙に浮いていて、すーっと流れるようにこちらに近づく。そして私をジッと眺めてから唐突に喋りだした。
「お前が俺を呼んだのか?」
頷く。悪魔はさらに喋り続けた。
「あんま強そうじゃねえな」
「え、あの」
「ってことは戦いは俺が全部やっちまっていいんだよなあ!?」
「いや、でも」
「んで、敵はどこだ!?」
「だから」
「あいつらか! よし、お前はそこで見て」
「バカーーーー!!」
あまりにも人の話を聞かずエリザさん達と戦おうとする悪魔に、平手打ちをした。
小さな悪魔は私の手に弾かれて吹っ飛ぶ。だがすぐに態勢を立て直し、私の鼻先まで近づいて怒鳴り声をあげる。
「なにしやがんだ! お前、敵を倒すために俺を呼んだんじゃねえのかよ!」
「もう! 話聞いてよ! ここには敵なんかいないから!」
私は恐がっていたことさえ忘れて言い返す。
私と好戦的な悪魔はそれからしばらくぎゃあぎゃあと言い争っていた。
「ふ、ふふっ……」
「フ、ハハハハハ! 叩きやがった。ハハハッ!!」
少し離れたところで見ていた私は必死に笑いをこらえ、レイヴンは思いっきり笑っていた。
「悪魔に平手打ちって」
「ハエ叩きみてえになってたぞ」
目の前ではルカと悪魔が言い争いを始めた。悪魔が召喚されたときはどうなるかと思ったが、意外とルカも負けていない。
あの悪魔が私達を攻撃しようとしたせいだろう。召喚した主として自分が止めなければ、という意識が働いたのかもしれない。
悪魔も言い返してはいても手を出す様子はない。そもそも使い魔は意図的に主を傷つけることは出来ないようになっているのだ。
「あの様子なら放っておいてもよさそうね」
「魔法使いと使い魔の在り方は人それぞれだからな」
激しく言い争う弟子をおいて、私とレイヴンは家に戻った。
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