第14コーナー「立たされるスタートライン」
外界の明るい日差しに、俺たちは思わず目を細めた。
そこは、断崖絶壁の上であった。
視界の先には、商店街のアーケードと大通りが正面に向かって真っ直ぐと伸びている。その直線上——遠くに微かに、赤色の扉が見えた。
「恐らく、あの扉に入れば良いということなのだろうな」と、眼鏡の男性が状況を理解して呟いた。
「へー。だったらさっさと行こうぜ」
「お家に帰りたいよ~」
無警戒に、金髪青年と太っちょが歩き出す。
「あっ、ちょっと……」
呼び止めようとすると、眼鏡の男性に手で制された。
「いや、この先にどんな罠があるかも分からない。どうせ誰かが先陣を切って様子を見なければならないのだから、彼らに任せることにしよう」
要は、二人を囮にするつもりらしい。
成り行きを見守るかのように老人と眼鏡の男性はその場に留まり、前を行く二人の背中に視線を送っていた。
「行かなきゃ、ダメ、かな……」
ランドセルの女の子が身を屈め、ブルリと体を震わせた。この中では最年少であろう。小さなその女の子が怯えるのも無理はない。
女の子の肩に、ポンと手が置かれる。
──詩音だ。
「大丈夫。きっと助かるわ。一緒に行きましょう」
こんな状況に置かれ、詩音も恐いはずである。少なくとも、詩音も一度は死線を潜り抜けてきたはずである。この世界がどんなに恐ろしい場所か、彼女も知っているはずである。
それでも、自分よりも年下の少女を励ますために、詩音は強がっていた。
「うん……。頑張る」
詩音の励ましで勇気が出た女の子が立ち上がる。
二人が歩き出すと、俺もその後に続くように進んだ。
そんな俺の気配に気が付いたのか、詩音が振り向いてチラリとこちらに視線を送ってくる。
彼女の意図は汲み取れなかったが、もしかしたら迷惑がられていて「付いてくるな」というジェスチャーだったのかもしれない。
しかし、詩音は何も言わなかった。だから、俺は考えるのをやめてその後に続くことにした。
残されたスタート地点の二人組──老人と眼鏡の男性は、あくまでも、状況を見極めてから行動をする気らしい。相変わらず、その場に留まっていた。
しかし、そんな彼らも強制的に足を動かさなければならなくなってしまう。
世界の——大地の崩落が始まったのだ。
二人の背後で、地面にヒビが入る。かと思えば、地面に穴があき、大地が崩落して暗い闇の中に呑まれていった。
「う、うおうっ!」
「ひぃぃいい!」
これには老人も眼鏡の男性も驚き、反射的に足を動かした。
——立ち止まることは、そのまま『死』に直結する。崩落に巻き込まれれば、生きて帰ることはできない。
何があろうとも、全力で前進することを余儀なくされた。
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