第13コーナー「エントリーメンバー」
扉が開いたかと思えば、更に複数人の男女がこの部屋の中に雪崩れこんで来た。
名前の分からない彼らを一人ひとり言い表すとすれば『黒縁眼鏡にスーツ姿の中年男性』『作業着姿の金髪青年』『ランドセルを背負ったミニスカートの女の子』『ランニングシャツに短パンの太っちょ』『厳つい雰囲気のある白髪の老人』──そんな面々である。
彼らが出現したことで、部屋の中が急に騒がしくなった。
「ああん? どーなってんだぁ?」
金髪青年が苛立ったように、近くに居た太っちょに絡む。
「ぼ、僕だって知らないよ……」
太っちょは汗をカキカキ、どもりながら答えた。
そんな金髪青年を眼鏡の男性が一瞥し「ふん」と鼻を鳴らす。
「これだから、血の気の多い奴は……」
「ああん?」
金髪青年のターゲットが太っちょから眼鏡の男性へと移る。
「質問をするにしても、礼儀ってものがあるだろう。他人に突っ掛かるよりも先に、その少ない頭で自分で考えてみたらどうだい」
「なんだと、コラア!」
金髪青年は怒声を上げると、眼鏡の男性の襟首を掴んだ。
すると、眼鏡の男性は急に意気消沈して「……失礼」と俯いた。
——しかし、それは別に臆したからではないようだ。
「そもそも、考えられる頭がなかったようだな。買い被り過ぎてすまない」
完全に煽っている。
怖い物知らずというべきか、眼鏡の男性の挑発が一層金髪青年の神経を逆撫でたことは言うまでもない。激昂した金髪青年が、眼鏡の男性に向かって拳を振り上げる。
「テメェ、ブッ殺してやる!」
「……で? 吠えるだけかな?」
眼鏡の男性も引く気はないようだ。
「この野郎!」
金髪青年が更に激昂する。
その時——。
「やめねぇか」
低く、静かな声が部屋の中に響く。
「んだとぉ?」
金髪青年が仲裁者を睨み付ける。
──が、相手の姿を見てギョッとした表情になった。
明らかに堅気の人間には見えない強面の老人が、部屋の隅で腕を組んでいたのである。
金髪青年は一瞬怯んだが「何だとぉ!」と虚勢を上げた。
しかし、それを掻き消す程の声量で、老人が一喝する。
「ブチ殺すぞ、糞ガキが!」
本物の──凄みのある怒声であった。
あんなにも威勢の良かった金髪青年も尻すぼみしてしまう。
「……ちっ!」と小さく舌打ちをすると金髪青年は眼鏡の男性から手を放し、部屋の隅で胡座をかいた。
部屋の中に気まずい空気が流れた。
そんな静寂を掻き乱すかの如く、例の声が脳内に響き渡る。
『突っ込め』
部屋の中がざわ付く。
「なんだって?」
「どういうこと?」
声の出所を探し、みんなはキョロキョロと部屋の中を見回した。そんな驚きようからして、彼らがまだここに来て間も無いということが伺えた。
『突っ込め。でなければ、落ちて死ぬぞ』
「はぁん? 何を突っ込めってぇんだよ?」
「何かの比喩表現でしょうかね……」
金髪青年が怪訝な表情になり、眼鏡の男性は首を傾げる。——それぞれがそれぞれの反応を見せた。
この中で動じていないのは、既にいくつかの死線を潜り抜けてきた俺と、詩音。——それから、あの強面の老人くらいなものであった。
「コイツに突っ込め、ってぇならゴメンだけどな」
金髪青年が冗談めかして太っちょの背中をバシバシ叩いた。
「な、何がだよ……!」
太っちょはアセアセしながらも、ムッとした表情で反論していた。
そんな下品な会話を横目に、俺は視線を詩音へと向けていた。
互いに名乗りあって折角距離が縮まり掛けたのに、人口が増えたことでコンタクトも取り辛くなってしまった。もっと彼女とお話しがしたかったが、部屋の対照的な位置で身を屈ませている彼女と会話を交わすことは困難であった。
まだ完全に警戒心が解けた訳でもないので、知り合い面をして隣に行くのも妙である。
『障害は倒して突き進むが良い。赤色の扉を目指せ』
心がざわついている間にも問答無用に、声の主は言葉を続けた。
それを合図に、これまでと同様に部屋の四方の壁が外側に向かって倒れ、俺たちは野外に投げ出されたのだった。
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