第9コーナー「たらいまわし」

 老人に教わった方角に進みながら、俺はその道すがらに出会った人たちにも赤色の扉の場所を尋ねてみた。別にあの老人を疑っている訳ではないのだが、情報はあればあるだけ良いと気軽な気持ちで情報収集をした。

 ところが、どうやら成果せいかはあったようだ。彼らは決まって「知っているよ」と首を縦に振ったのだ。

「この町の一番北にある家の地下室にあるよ」と、

「コンビニのトイレの扉が赤色だったねぇ」

「山田さんの家にある屋上の扉がそうだよ」

 住人たちは、てんでばらばらな心当たりを口にして明後日あさっての方向を指差した。


 そんなにも複数の赤色の扉が存在しているのか。

 だとすれば、しらみ潰しに探していくしかない。

 順々に回っていけば、いつかは正解に辿り着くことができるだろう。


 気が重くなりながらも足を進めている内に、老人に教えてもらった家屋へと到着する。

 確か、老人はこの家の二階に扉があると言ったはずだ。俺はチャイムも押さずに玄関をくぐり、土足で家の中に入り込んだ。

「あっはっはっは!」

 この家に住む中年の夫婦が、居間でテレビを観ながら笑い声を上げていた。夫婦は俺を一瞥いちべつしたが、勝手に上がり込んだことに驚くでも怒るでもなく、すぐに視線をテレビの画面へと戻した。

「お邪魔しています。すみませんが、家の中を調べさせてください」

 申し訳程度にそう挨拶あいさつをすると、俺は階段を上って二階へと向かった。

——赤色の扉。

 扉という扉を開けて回った。押し入れやタンスの奥まで細かく調べたが、老人が言っていたような赤色の扉は見当たらない。隅々すみずみまで物色ぶっしょくしたので見落としということはないだろう。

「はずれか……」

 俺は察して、民家を外に出た。


 当てが外れたので、次の心当たりへと向かうことにする。

——この町の一番北にある家。

 通行人から得た情報の家である。地下室に赤色の扉があったという話を聞いたので、そこを目指して歩いた。

 ところが、辿り着くまでに結構な時間が掛かった。

 上空の隕石との距離が縮まったことで、隕石がより巨大に見えた。

 ようやく北の家に辿り着き、ダッシュで家の中に入り込む。家主が目を丸くしていたが、お構いなしに床板をさぐる。

 しかし、くまなく探してはみたが、やはり赤色の扉はおろか教えて貰ったような地下室は見付からない。


 俺はそんな調子で、手掛かりをしらみ潰しに当たっていった。

 だが、どうやら運がなかったようだ。情報の最後の一つまで調べてみたが、結局赤色の扉に辿り着くことはできなかった。それすらも嘘の情報であったのである。


 タイムリミットがせまっていた。

 上空からパラパラと砂粒すなつぶのようなものが降ってきており、隕石の熱気を感じるようになっていた。隕石で太陽光がさえぎられ、周囲は影が差して薄暗い。

 絶体絶命の状況におちいったが、死を覚悟して諦めたりはしなかった。脳味噌をフル回転させて打開策を考えた。

──本当のことを言っている人間は、この町で一人だけ。

 ふと、声の主の言葉が頭を過ぎり、俺はハッとなる。

「……そういうことか。その言葉がヒントになっていたんだ!」

 俺はあることに気が付いた。

 ウカウカしている場合ではない。恐らく、これがラストチャンスとなるだろう。


 俺は生きるために、持てる力を振り絞って、初めに居た交番へと向かって走り出した。

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