インターバル

【回想】

 走ることが好きだ。

 思えば、俺はいつも走っている。

 登下校の道のり、陸上部での練習、夜毎よごとの日課のランニング──。

 ちょっとした移動の合間にも、ついついけ足になってしまう。


──道草みちくさかける


 それが俺の名前だ。

 かける──『駆ける』という名前にたがわず、俺がこれまで走ることについやしてきた時間というのは、他のどんな趣味しゅみに当てたものよりもずっと長い。


 陸上部に所属している俺は、毎日がむしゃらに走り続けていた。

 大会で優勝したいという思いも勿論もちろんあったが、それよりも自らの足を動かす口実こうじつとして部活動にはげんでいた。

 それでも物足ものたらなさを感じていた俺は、陸上部の仲間たちを練習後にも自主練に誘った。

 彼らも陸上部に所属する同志どうしなのであるから、思いは俺と一緒であろう。──そう考えて遠慮えんりょはしなかった。

 初めは付き合いでトレーニングに参加してくれたのかもしれない。

 しかし、次第しだいに断られる回数も増えていった。

 それでも、俺は仲間たちを誘い続けた。

「お前には、ついて行けねぇわ!」

 ある日、俺の思想に──無尽蔵の体力についてこられなくなった仲間たちに、俺はそんな心無い一言を受けた。一緒に全国大会を目指そうと互いに励まし合い、支え合ったはずの仲間たちが離れていった。

──そこまでつらいことなのか?

 当たり前のように毎日走り続けている俺からしたら、そんな仲間たちの根性のなさに怒りすら覚えた程である。

 大会で優勝するつもりなら、もっと自分をきたえ上げもっと頑張らなくてはならない。こんなところで頓挫とんざしている彼らに、俺の方こそあきれてしまう。

 それに、陸上部の大切な仲間たちを失っても俺の心には何のダメージもなかった。

 ただ、自分さえ走り続けることができればそれで良いのだ。

 走ること以外に、俺には何もない。

 今更いまさら、誰かの為に足を止めることすらできないのである。

 幼い頃から、俺はずっと走り続けている。ここで走ることをやめたとして、俺には何も残らない。

 どんな困難や苦悩があろうとも、俺にできることはひたすら足を前へ前へと動かすだけである。


 雨の日も、雪の日も——台風の日だって暴風雨の中、レインコートを着て走り続けた。


 そして、とうとうその日がやって来てしまった。

 ——それは、ある意味では俺が『人生で初めて足を止めた日』とでも言えるだろう。

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