第19話 ブリ大根の恨み

どうも医者に叱られたようだ。父が料理の味にうるさくなった。


「おい、この味噌汁、味が濃いぞ! 塩分の摂りすぎだ!」

「いや、そんなに味噌は入れてないよ」

「あぁん? 俺の舌がおかしいのかぁ?(世紀末漫画のヒャッハーな人っぽい口調)」

「(おかしいんじゃないの)」



――スーパーでブリが安かった。知り合いの農家に大根をいただいた。

つまり、ブリ大根を作ろう。


父がうるさいので私も少し本気を出すぞ。


いつもは「味付けは麺つゆで完成」というノリだが、ここはあえて昆布で取った出汁とブリの旨味を大根に吸わせる……酒とごく少量の醤油だけで味付けする……。

うむ、今は物足りないような味だが、ここは素材の味を信じる。一晩寝かせれば程よく上品な味わいになるであろう。

明日が楽しみだ。



翌日。仕事から帰ってブリ大根を温め直し味見した。

……え、嘘、しょっぱい。あんなに上品な味を目指したのに、なんかクドイ味? 父にまた文句を言われてしまう……面倒……。


「おい、どうした?」


――何というタイミングで散歩から帰宅した父。私はしぶしぶ説明することにした。


「実はブリ大根の味がしょっぱくなっちゃって……」

「……ほう」

「醤油ちょっとしか入れなかったんだけど、煮詰めすぎたかな……」

「……ほう(ソワソワ)」


あれ、予想より面倒じゃないリアクションだ。ところでお父さん、なんでソワソワしてるの?


「いや……ちょっとつまみ食いしたら、味が薄いかなと思って麺つゆを……」

……。

「いや……ほら、煮詰めると味がしみるだろ!」

……。

「ええと……味を濃くしないと日持ちもな、うん」

……。




二日ほど口をきかなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る