第18話 メリーさんは来ない
金曜の夜、浮かない顔の父。
私の留守の間に強引な勧誘の電話が来たそうだ。
「電気料金が安くなります! 日曜日にご自宅にお伺いしてご説明いたします!」
……『安くなる』という言葉に、父は最初は飛びついたのだろう。
しかし、時間を置かずに再度電話がかかり
「日曜の午後に…」
「やはり、お昼ごろに」
「午前中に伺いますので!」
と強引に迫られ不安になったようだ。「私メリーさん。今あなたの家の前にいるの」みたいな。
「お前、日曜日は家にいるよな!? な!?」
翌日、土曜日。
10:00
「お前、ちょっと電話して断ってくれ(電話番号をメモした紙を渡される)」
「え、お父さん自分で…」
「いいから!」
何がいいのか知らないが、とりあえず電話した。
〈営業時間内におかけください〉
無機質なアナウンスが流れるだけである。
「こういうのって、関わらないのが一番だよ。こちらから連絡するのって危険だよ、いいカモだよ」
「……」
11:00
「もう一回電話しろ!」
何故そんなに怯えているのか。少なくともメリーさんは来ないだろう。仕方なくリダイヤルボタンを押す。
〈営業時間内に…〉
「やっぱり誰も出ないよ(ちょっとホッとする)」
「ほう…そうか。」
……私はこの時、父があることを『学習』したのに気づかなかった――。
13:00
「昼飯にうどんを煮たぞ。冷めないうちに食おう」
「はーい」
「…と、その前に」
お盆をテーブルに置き、食卓に座ると見せて
……機械音痴のはずの父は、
滑らかな動きで、
電話の『リダイヤルボタン』を押した――
え!? ウソ!?
しかも、今回はオペレーターが受話器を取ったようだ。
な ん で !?
「おう! 宮間だ! 明日は来るんじゃねえぞ!! あ、何のことかって? しらばっくれるな!!」
言いたいだけ言って父は受話器を置いた(なぜ昨日言えなかった)。
「さ、食おうぜ!」
あまりの出来事に呆然とする私の目の前で、父は晴れ晴れとした顔でうどんをすすった……。
<何をやるかわからない存在>が、一番怖い。
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