第16話 箱ティッシュ
私が一人暮らしをしていた頃の話である。ある日、母から衝撃の電話が。
『お父さんが…お父さんが…!』
なんと父が倒れて救急車で運ばれたという。
アパートからギリギリ徒歩で行ける距離だ、私は文字通り走って大学病院へ向かった。
酸素マスクをつけ、目を閉じてベッドに横たわる父。え、これヤバいんじゃないの?
母の話によると、病院嫌いの父は朦朧とした意識の中でも救急車に乗ることを拒否し、母と兄弟たちと近所の人たちを手こずらせたという。倒れても父は父であった。
医者の話では相当ヤバいらしい。家族の他に叔母も来てくれていた。
さすがの私も、意識のない父の顔を呆然と眺めるばかりである。
――その時、父がうっすらと目を開けた。
「お…お父さん!」
家族が必死に呼びかける中、父がとった行動は――
……なんで酸素マスクを自分でむしり取ろうとするの!?
ていうか、救急車で運ばれたくせに、なんでそんな力強く手が動くの⁉
病院嫌いにもほどがあるだろ!!
母や兄弟が取り押さえようとしても止まらない…その時、私の視界の端に“ソレ”が映ったのだ。
ガッ!!
……今考えると危険な行為だったが、私の手は勝手に父の頭を箱ティッシュで殴っていた。
殴られた父はハッとしたのか
『お! お前いたのか! 久しぶり!!』
みたいな表情を一瞬だけして再び意識を失った。
――まぁ、父は医者の予想を大いに裏切り、現在に至っても元気でいるわけだが、いまだに当時のことを思い出しては
「あいつら(母&兄弟)、勝手に俺を救急車に乗せやがって…ブツブツ…」
と愚痴るが、誰のおかげで今日も元気でいられるんですか。
あと、何故か私に殴られたことは覚えていらっしゃらないようですが、その辺は永遠にお忘れになっていてください。
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