「おい、寝てんのか!?　起きろ、ちょっとテレビ観ろよ！」

“ほぉら、見てください！　油を全然ひいてないのに焦げ付きません!!　魔法のフライパン、セットでこの価格！”

「お前、『焦げないフライパンが欲しい』って言ってたな！　このフライパン、楽天市場だといくらだ!?　ポイントはどれくらいだ!?」

いつだって最安値を求める。妥協は許さない、それが父の買い物である。

あと、たしかに私そんなこと言ったけど、何年前の話だ。なぜ今になって思い出した。

「ええと…（寝ぼけつつPCを立ち上げる）テレビと同じ値段です。ポイントは昨日楽天が勝ったので２倍だけど」

「送料は!?」

「それも同じ750円…あ、お父さん、これレビューがあんまり良くないよ。５点満点で3.27って…『すぐ焦げる』とか書いてる人がいるよ、やめておこうよ」

「ああ!?　ネットのレビューなんてアテにならないんだ！」

信じたいものだけ信じる。人の意見など聞かない、それが父の生き方である。

走り出した父は止まることを知らない。テレビ画面の電話番号に速攻でかける。

「おたくのフライパン、いくつ買ったら送料無料になるの？　え、無料にはならないけど３セットまでなら同じ送料？　よし、じゃあ３つ買うから何かオマケつけてよ!!」

――数日後、フライパンセットが３つ届いた。使い道がよくわからない『おろし金とスライサーのハイブリット』みたいな何かが同封されていた。

ひとつは自宅用、ふたつめは弟夫婦へ、みっつめは……台所のどこかにあるんじゃないかな……。

「おい、どうだ!?　焦げ付かないだろ！」

「いや、しっかり焦げ付きます」

「あ!?　なんだと!?（俺が買ってやったものに文句あるのか）」

「焦げ付きます（あるよ）」

父はたいへんご機嫌を損ねた。

しかし、そんなことを知らない業者は“３つも買うとは、いいカモだ”とでも思ったのだろうか、ご丁寧に父に商品の感想を求める電話をくれた。

「ああ!?　しっかり焦げ付いてんぞ！　大嘘つきやがって!!　え、返品できますって？　じゃあこっちまで取りに来いやぁ!!」

もちろん取りに来てもらえなかったので、フライパンセットは現在も我が家にある。

（一応この文章を書くにあたってググったら、消費者庁から叱られた品物みたいです。あと楽天市場のショップは見当たらなくなりました）

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