第9話 たぶん比較的巧妙でもないほう
“巧妙化する特殊詐欺! あなたも狙われています!”
司会『ここでAさんが実際に被害にあった手口をVTRでご覧ください』
芸人『うわぁ、ホンマ怖いですねぇ~! 気ぃつけなアカン!!』
父「ハハッ、なんでこんなのに引っかかんだよ!」
――ある夜、居間の電話が鳴った。
「ハイもしもし~?」
のんびりと電話に出る父。こんな時間に誰からの電話か知らないが、通話の邪魔になるかと思い私はテレビを消した。会話の内容がちょっとだけ聞こえる。
「はあ、NTTさんね。なるほどインターネットの料金が…」
……NTTってこんな夜中に電話してくるの? あと、電話の向こうが妙にガヤガヤしてるのなんで? NTTのくせに回線の繋がり悪いの?
「お父さん!」私は小声で言った。
「それ、ホントにNTTから?」
一応、父もハッとしたようだ。
「おたく、ホントにNTTさんなの? …あ~、NTTから委託を受けている会社ね。なるほど…あ、ハイハイ私の名前ね、宮間〇夫、生年月日は、え~と昭和XX…」
……え、ええええ!?
「お父さん! その電話おかしいって! 個人情報教えちゃダメ!!」
私は必死に止めたのだ。受話器を取り上げようと手も伸ばしたのだ。
だが私の手をサッと振り払い、父は笑顔で私に言った。
「大丈夫! ちゃんとした会社だ!」
夜中に電話で身元確認するような会社のどこが大丈夫なのか。目の前にいる自分の子どもよりちゃんとしているのか。マジか…今までの親子関係マジなんだったの……。
しかし、電話の相手も父の年齢が想定以上に高齢だったのか作戦を変更したようだ。
「え? ああ他の家族ですか? ハイハイ、私も歳が歳でねぇ」
ふだん年寄り扱いされるとムキになるくせに今日は素直だ。受話器を一度手で塞いで私に渡す。
「俺トシだから、他の家族に代わってくれって。ほら、NTTは法律で電話できないから」
……まったく何を言っているかわからないが、とにかく受話器をぶんどった。
「もしもし?」
「××通信株式会社ですぅ~」
キャピキャピした元気なギャルって感じの声がする。
「この度、宮間様の電話権がなくなってしまいますのでぇ、私共のほうで継続のお手続きをすすめさせていただく件でお電話しましたぁ!」
「……電話権がなくなるなんて聞いたことないですが」
「なくなるんですよぉ!」
「(しぶといギャルだな)そんな大事な話、なんでNTTが直接連絡してこないんですか?」
「法律で決まってるんですぅ~!」
漏れ聞こえる会話に、父は『まったくオマエは疑い深くて困った奴だ』と言わんばかりにニヤニヤしている。
「……それ、何ていう法律の、第何条ですか?」
「――で、お手続きのためにですねぇ…」
あれ、どうしたギャル。私の声が聞こえなかったのか? もう一度質問してみよう。
「いや、あなた法律っておっしゃいましたけど、何ていう法律…で…すか…?」
――ふと視線を感じて父の顔を見る。
( ゚д゚)
……私も顔文字で文章など書きたくはない。
しかし、その時の父の顔を表現するのに
( ゚д゚)
以上に適切な日本語が見当たらない。むしろこんなにも忠実にアスキーアートを再現する父にビビった。
ギャルは急にテンションだだ下がりで「はあ…はい…」しか言わない。私はそっと受話器を置いた。
電話番号と会社名をググる。
「NTTを名乗ってインターネット回線の勧誘をされた」「職場にしつこく電話が来て個人情報を聞こうとする」「関連ワード:××通信株式会社 詐欺」……。
ロクな情報は見当たらなかった。
“ますます巧妙化する特殊詐欺!”
司会『ここでAさんが実際に被害にあった手口を……』
父「ハハッ! うまい手口を考えるもんだな!」
――お父さん、切り替え早いですね。
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