第7話 マイクロビーズクッション

イオンに買い物に行った。

運転免許を返納している父は、お客様感謝デーに連れて行ってほしくてうずうずしているのだ。

車の助手席で既にテンションが上がっている。

「おい! なんで止まるんだよ! 行けよオイ!」

「ここ一時停止です…。」



ワゴンセールにマイクロビーズクッション(もちもちの手触りのヤツ)があった。

半額だ。そういうのに目がない父。

しかしレジのお姉さんはバーコードのスキャンを間違えた。

正価だ。そういうのに気づく私。

やはり血のつながった親子だ。


レシートを片手にサービスカウンターで交渉する。

「これ、値札に半額って表示されているんですけど…。」

「あら…少々お待ちください。」

「まったくよ! 半額だから買ったのによ!」

外野は黙っててくれないだろうか。


帰宅。疲れた、ちょっと横になろう。


「おい…おい…!」

「…何ですか?」

「――大変なことになった…。」


えっ何その青い顔!? 訃報!? 誰が死んだの!?




「――値札を切ろうとして…本体までハサミを入れてしまった……」

「……。」

クッションから、真っ白い砂のようなものがサラサラサラ……。




とりあえず裁縫箱を取り出して縫ってあげた。

ちょっとビーズがこぼれるけど、今日も父は使っている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る