第16話 隙だらけ

私はよく他の人から完璧美少女だと言われる。

 学業の成績は入学以来、ずっと学年トップを譲ったことがない。

 この前受けた全国模試の結果も上位数パーセントだった。


 運動神経も悪くない。身体を動かすのは好きだ。スポーツテストでは全学年の女子の中で五本の指に入る活躍を残せた。


 それに見た目も良い方だと思う。

 謙遜して大したことないと言ったら、反感を買うくらいには。


 後、なるべく人当たりもよくあろうと意識している。

 目に見える世界は、自分の心を映し出す鏡――自分が良い人間であれば、きっと世の中も良く映るはずだと信じているから。


 私のステータスを五角形のグラフで表したなら、全部の要素がグラフの端までバランスよく伸びていることだろう。

 自分ではそうは思わないけれど、確かに他の人からすれば、完璧美少女だというふうに見えてしまうのかもしれない。


 対する友江さんと言えばだ。

 彼女は授業中はずっと寝ているか上の空なこともあり、テストはいつも赤点ギリギリの低空飛行ばかりだった。いつ墜落してもおかしくない。


 ものぐさな性格だからか、運動もほとんどしない。

 スポーツテストの日はサボって保健室にいたから結果ナシだ。


 人当たりについては全然よくない。

 人を選ぶというか、気に入った相手以外には徹底して塩対応だ。友江さんのことを苦手としているクラスメイトも多い。私も正直苦手だ。


 後、世の中を醒めた目で見ている節がある。ニヒリストというか。どことなく投げやりな雰囲気を纏っている気がする。


 ただ見た目は美少女だと思う。

 それは間違いない。


 自分と友江さんを比べた時、明確に劣っている要素はないように思える。

 だけど、明確に一つだけ違うところがある。

 友江さんは人に甘えることに躊躇いがない。

 臆面もなく弱みを人に曝け出せる、と言い換えてもいい。

 宿題をやってないからノートを見せて欲しい。移動教室に行くのが面倒だからおんぶをして連れていって欲しい。


 口にしたら相手に嫌われてしまうんじゃないかな……? 

 私なら躊躇して止めることでも、平気で言うことができる。


 友江さんは正直言って、隙だらけな人だ。

 でも、隙を見せて甘えることができるのなら隙は魅力になる。

 だからこそ、守谷くんは友江さんのことが放っておけない。何だかんだと言いながらも結局は構ってあげている。

 そうしている内にどんどんと仲良くなっていく。

 守谷くんは友江さんに呆れているみたいだったけれど、そこから距離を縮めて恋人同士になった例は枚挙にいとまがない。

 私は恋愛漫画をたくさん読んできたから知ってるんだ。


 人のダメな部分というのは、その人の魅力でもある。

 私は目に見えてダメな部分というのが余りない。

 本当はダメな部分もたくさんあるんだけど……。

 周りの人たちからはなぜだか完璧な人間だと思われているみたい。

 それが取っつきにくさに繋がっているのだろうか。

 故に守谷くんとイマイチ距離を詰め切れない。

 以上が私の導き出した仮説だった。

 仮説を仮説のまま置いておくのは性分ではない。だから、私は早速、立てた仮説を披露してみることにした。


 ☆


「男の人って、やっぱり隙のある女の子の方がいいのかな?」


 翌日の放課後。

 私は守谷くんに尋ねてみることにした。

 意中の相手に直接意見を求めることで、仮説の真偽を確かめる。


「えっと……どういうこと?」

「実はね。最近、私の好きな人に仲の良い女の子ができてね。私といる時には全然見せてくれないような一面を、その女の子には見せたりするの。その女の子っていうのはずぼらな性格というか、隙が多いような子なんだけど……。男の人からすると、そういう子の方が可愛く見えるのかなって」


 人名を伏せながら、私たちの今の関係を説明する。

 実際は私たち三人――私と守谷くんと友江さんのことなんだけど、

 もちろん自分たちのことだとは明かさない。


「別にそんなことはないと思うけど」

「守谷くん。私って取っつきにくい雰囲気があるのかな?」

「うーん。そうだね。白石さんはできる人っていうイメージがあるから。確かに周りの人は身構えてしまうのかもしれない」


 守谷くんは言った。


「僕からしても、白石さんは高嶺の花って感じがするかな」

「そんなことないんだけどなあ……。私、結構だらしないところもあるし。皆が思ってるよりも全然ダメな人間だよ?」

「端から見てると、非の打ち所がないように思えるよ。いつも皆に頼られて、弱いところは見たことがないし」

「どうすればいいのかな?」

「例えば、もっと人に頼ってみるとかはどうかな」

「頼る? 甘えるってこと?」

「うん。そうすれば相手の男子も、白石さんは完璧なわけじゃないんだ……って気づいて取っつきやすくなるかもしれない」


 なるほど。

 もっと人に頼って、甘えてみる……か。

 私は昔からダメなお兄ちゃんを持ったこともあって、誰かに頼ったり甘えたりしたことがほとんどなかった。

それがいけなかったのかもしれない。


 ――よしっ。そうと分かれば、もっと人に頼って、甘えないとね。隙を見せて守谷くんに親しみやすいと思って貰おう。

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