第15話 忸怩たる思い
――二人とも、イチャイチャしてる……!
守谷くんと友江さんのじゃれ合いを、私は忸怩たる思いで見ていた。
隣の席ということもあり、その破壊力は抜群だ。
他人に嫉妬するという感情を今まで知らなかった私だけど、二人を見ている時に胸の中に渦巻くどろりとした気持ちがきっとそれだ。
――せっかく守谷くんの隣の席になれたと思ったのに……。友江さんがずっと守谷くんにべったりだから、話しかける暇がないよ。
席替えをした時は、思わずガッツポーズをした。
守谷くんの隣になれた! やった! これから話す機会も増えるし。そうすれば私たちの仲も一気に進展するかもしれない!
……ふふ。これから毎日、学校に来るのが楽しみだなあ。私と守谷くんのイチャイチャ学校生活が始まるんだね!
けれど。
友江さんという伏兵によって、私の計画は破綻してしまった。
友江さんは守谷くんにずっとべったりと甘えていた。
そしてちょっかいをかけ続けていた。
彼女は普段、クラスの皆とは距離を取っているにも拘わらず、なぜか守谷くんにだけは心を許しているみたいだった。
宿題のノートの写しをさせて欲しいというところから始まり、移動教室の時は移動するのが面倒だからとおんぶを要請していた。
守谷くんは最初は拒絶していたけれど、結局は押し切られてしまい、友江さんをおんぶしながら階段を上り下りする羽目に。
授業中もちょっかいは続いた。
友江さんは守谷くんの背中にシャーペンのキャップで空文字を描き、『私は何を描いたでしょーか』とクイズを出していた。
守谷くんが取り合わずに無視していると、友江さんは後ろから守谷くんの脇腹に両手を差し入れてくすぐり始めた。
「うわあっ!?」
守谷くんは悲鳴のような声を上げ、先生から注意されていた。
「ぷっ……くくく……」
友江さんはお腹を抱えながら声を殺して笑っていた。その後すぐ、振り返った守谷くんに下敷きでばしんと頭を叩かれていた。
……楽しそうだなあ。
私も二人の間に割って入りたかった。
だけど、隙がなかった。
私が守谷くんたちとの共通言語を持っていないこともあったけど、友江さんが私のことを寄せ付けない雰囲気を出していたから。
友江さんはクラスの皆とは距離を取っている。
「守谷くん。友江さんと仲が良いんだね」
休み時間。
友江さんが席を外している時を見計らって、私は守谷くんに声を掛けた。
守谷くんは苦笑いを滲ませた。
「全然。向こうがちょっかいを出してくるだけだよ。友江は僕を弄り甲斐のあるオモチャだと思ってるみたいだから」
……そうかな。
私、友江さんが誰かにあんなふうに甘えてるところを見たことがないよ。
「ふふ。気に入られてるんじゃない?」
「気に入られているというか、舐められてるんだと思う。あいつ、僕になら何を言っても大丈夫だと思ってるんだよ」
信頼されてるんじゃないかな。それは。
「じゃあ。一度、本気で断ってみたら? 何を言われても取り合わないとか。そうすれば少しは変わるかもしれないよ?」
口にした瞬間、あっ、と思った。
私、今、悪意のある言葉を吐いてしまった。
友江さんから守谷くんを遠ざけようと、誘導しようとした。そんな意図を胸にした言葉を発したのは初めてのことだった。
気づいた途端、自己嫌悪の海に沈んでしまう。
「僕としては、いつも本気で断ってるつもりなんだけど」
守谷くんは苦笑いを浮かべる。
「あいつは僕が取り合うまで、ちょっかいを掛けてくるから」
「私が友江さんに止めるように言おうか?」
「いいよ。白石さんに迷惑を掛けるわけにはいかない」
守谷くんは私を気遣うように言った。
「それに友江は放っておいたら、自分では何もやらないから。誰かが世話を焼く外れくじを引かないといけないんだよ」
……友江、か。
守谷くんは基本、女子のことを敬称で呼ぶ。
唯一の例外が友江さんだ。守谷くんは彼女のことを呼び捨てにする。
たぶん、守谷くんに理由を聞いたら、『あいつには敬称は勿体ないと思って』という旨の答えが返ってきそうだ。
だけど、私にはそれがとても羨ましく聞こえた。
……私も『白石さん』って呼ばれてるもんね。他人行儀というか。友江さんみたいに呼び捨てをしてくれていいのに。
守谷くんには私のことを気軽に『白石』と呼んで欲しい。
……欲を言えば『真奈』って呼んで欲しいけど。それはちょっと性急すぎ? その時には私も『直孝くん』と呼びたいな。
……お互いに名前で呼び合うって、特別な感じがして素敵だし。
そんな間柄の異性は今までいたことがないから、憧れてしまう。
けれど、現状は敬称付きの名字呼びだ。
……私と友江さんだといったい何が違うんだろう。それが明らかになれば、守谷くんと仲良くなるヒントになるかもしれない。
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