第7話 告白待ち

――は、恥ずかしかったぁぁぁっ……!


 授業中。

 私はさっきの守谷くんとの会話を思い返して顔を両手で覆っていた。耳がかあっと熱くなっているのが分かる。

 自分でも思っていた以上に攻めてしまった。

 守谷くんのことを色々と知れたのは良かった。積極的に話せたし。

 だけど、磁石の例えの下りは完全に踏み込みすぎた。


 私がS極なら、守谷くんはN極って……。

 よくよく考えたらほとんど告白に近い。

 あの後、咄嗟に冗談めかしたような感じに持っていけて良かった。アドリブに強い自分のことを褒めてあげたくなる。

 それに結果的にはファインプレーだったかもしれない。

 あの言葉によって守谷くんはきっと私を意識してくれた。

 恋愛相談で好きな人には積極的に話した方がいい、と助言を受けた翌日に早速守谷くんに積極的に話しに行ったのもある。


 ……ふふ。守谷くんは今頃、やきもきしてるに違いない。もしかすると私の好きな人は僕なんじゃないかって。

 守谷くん! そう思ってくれていいんだよ!

 そして私に告白にしにきてくれてもいいんだよ!


 例えば放課後、放課後に呼び出されて――。


『守谷くん。私に何か用?』

『あのさ。前から気になってたんだけど……。白石さんが好きな相手。もしかすると僕のことなんじゃないかって思って』

『えっ。どうして?』

『白石さんの話す好きな相手の条件が僕と合致するから。当たってる?』

『さあ。どうでしょう』

『どちらにせよ。僕は白石さんのことが好きだ。付き合って欲しい!』

『……ふふっ。正解♪ 私の好きな人は守谷くんでした! やっと気づいてくれたね。私の方こそよろしくお願いします』

『白石さん……。君のことを一生涯掛けて守るよ』

『守谷くん……!』


「ふふ。ふふふ……」


 私が妄想の翼をたくましく広げてニヤニヤしていた時だった。突如として掛けられた声が現実へと引き戻した。


「じゃあここを……白石さん。訳して貰おうか」

「は、はひっ!?」


 英語の先生に当てられた私は反射的に立ち上がった。

 動揺していたからだろう。膝を机の上に思い切りぶつけた。


「~~っ!?」


 痛みに悶絶してしまう。涙が目に滲む。


「お、おい。大丈夫か?」と心配された。

「は、はい……」

「そうか。なら、和訳よろしく頼む。いつもみたいに完璧に訳してくれ」

「…………」

「白石さん?」

「あの。教科書のどこのページでしょうか……?」


 先生がずっこけそうになる。額に手をつくと、ため息を吐いた。


「……三十五ページの五行目からだ。……しかし、珍しいな。白石さんが授業にまるで身が入っていないなんて」

「す、すみませんっ」


 私は慌てて指定された行から和訳し始めた。

 授業を聞いていなかったものの、訳す箇所さえ分かれば、辞書を使わなくてもスラスラと訳すこと自体は簡単にできた。


「よろしい。完璧だ。座りなさい」

「……(ホッ)」


 着席した私だけど、火照りはまだ収まらない。

 ……うぅ。守谷くんの前で恥ずかしい姿を見せちゃった。完璧にこなして、良いところを見せようと思ってたのに。振り返れないよ。

 後ろを振り返って、守谷くんが幻滅した顔をしてたらどうしよう。


「白石さん。何があったんだろう」

「もしかして悩み事でもあるのかな」

「心配だ……! 俺まで授業に身が入らない……!」

「あんたはいつもそうでしょうが」


 クラスメイトの人たちは私について色々と憶測を巡らせていた。

 けれど、彼らもまさか夢にも思っていなかっただろう。私が守谷くんに告白されるのを想像してニヤニヤしていたなんて。


 その後、授業が終わり、昼休みを迎えた。その内に放課後になった。家に帰り、夕ご飯を食べてお風呂に入った。アイスを食べて、友達から送られてきたラインに返信して、動画サイトで好きなアーティストのPVを見て、そろそろ日が変わりそうだ、寝ようかなと思った時にはたと思った。


 ――あれ? そういえば、守谷くんに告白されてないな?


 まるで音沙汰もなかった。

 今日一日。向こうからは何のアクションも起こしてはこなかった。


 ――まあ。昨日の今日でっていうのは難しいよね。告白するのも勇気がいるし。だけど近いうちにきっとされるはず!


 朝。起きると同時に私はスマホに守谷くんからのラインが届いていないか見るが、友達からのメッセージしか届いていない。

 登校時。靴箱に守谷くんからのラブレターが入っていないかと期待したけれど、案の定入っていなかった。

 ラブレターが入っている日もあって、私は思わず小躍りしそうになったけれど、それは他の男子生徒からのものだった。

バレンタインデーの男子の気持ちが少し分かった気がした。


 翌日。そして翌々日と守谷くんは平常運転だった。温度の低い徐行運転。感情を余り表に出さずに本の世界に没頭している。


 ――守谷くん。私に告白してこないなあ……。どうしてだろう? ――って! 私の方がやきもきしちゃってるし!


 ミイラ取りがミイラになってしまっていた。


 ――きっと。あれだけのヒントだと足りなかったんだよね。私の好きな人が守谷くんだと気づいて貰えなかったんだ。……守谷くん、草食系っぽいし。それなりの確証がないと動き出せないタイプなんだろうな。


 ならば!

 私は次の手を講じることにした。

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