[中編]
目の前に落ちた僕の一部だったものを手に取ろうとしたが、
右脚が前に出ただけで
手に取る腕は出てこなかった。
「あぁっ...ぁぁ...」
口から絶望の声が漏れ出す...
右半身から血が滲み出してきた。
液体状の何かがつたっているのが、神経の内側から伝わる。
ふと、化け物へと顔を上げると
...化け物は笑っているようだった。
( このままだと...コイツに‼︎ )
頭に電気のようにそんな考えが走った。
そして僕は、右腕と剣を残し、化け物を後にして洞窟の外へ走り出した。
ただ、死にたくない一心で。
今までの僕からは想像出来ない程、みっともなく走った。
振り向いてはいないが、化け物は追いかけて来る様子はなかったようだ。
逃げなきゃ...
逃げなきゃ...
逃げなきゃ...
「............っは⁉︎」
目が覚めたのは...自分の家のベッドだった。
柔らかなベッドと家の温かさが、僕の心を落ち着かせる。
だが...寝返りをうつと、絶望が一気に押し寄せてきた。
「無い!無い‼︎...
僕の右腕がないっ‼︎‼︎」
その声は、思っていたより大きく出ていたみたいで、ドアから父さんと母さんが姿を見せた。
「父さん!母さん!」
どちらも...とても気まずそうな顔をしていた。
「その...セイ...気の毒だったわね...。」
「あぁ...本当...どうしてこんな事になったんだろうな...。」
「母さん達は何も悪くないよ...全部僕の所為だよ...ごめんなさい...。」
親にこんなに心配をかけさせるなんて...
...重い罪悪感が背中にかかる。
そりゃそうさ、僕たち家族は僕の退治の報酬で生きている。
でも今、商売道具の右腕が僕の勝手な行動で無くなってしまった分、退治の仕事は一気に来なくなり、生活は苦しくなるだろう...
「だけどな、父さん達はセイのそばに居るからな!」
...父さん!
「そうね!私達も何か職を見つけて、セイの事支えるわ!」
...母さん!
僕は...とても良い両親の元に生まれてきたんだなぁ...。
なのに、なのに僕は...
「ほら、そんなんじゃ傷は良くならないわよ...
よくお眠りなさい...。」
母さんが僕を包みこむように、毛布をかけてくれた。
「「おやすみ...私達のセイ...」」
おやすみ...父さん...母さん...
「...夜逃げか...」
多額の請求書を左手で握りしめ言う。
再び目が覚めると、
家には僕一人だった。
毛布の上に置いてあったのは、二枚の請求書。
一枚は、僕の名前が記載されている治療費。額から考えるに、きっと両親は僕の右腕が修復しないか、何度も手術を試したのだろう。だけど、今右腕がまだ無いのを見ると、不可能だったのだと思う。
もう一枚は、あの時共に退治に向かった仲間達全員の名前が記載されている。これもきっと、遺族から僕だけが生還したのが伝わり、妬まれ、適当な理由をつけ金をせびられたのだろう。
...どちらも簡単には払えない額だ。
僕が目がさめる前から、夜逃げを計画していた事なんて、考えたくもない。
昨日の二人の優しさも、演技だったのだと気付いてしまうからだ...。
二人だけ逃げたのを考えると...僕一人に請求書を払わせる気なのだと考えると...
「愛されてたのは...僕じゃなくて、
僕の才能だけだったんだ...。」
残酷だけど信じたくないけど
これが答えなんだ。
とりあえず、まずはこの請求書をなんとかしなければ。
取り消す事はまず無理だろうし、下げる事も出来ないだろうな...
「くそっ...せめて、またハンターの退治の仕事が出来たら...
退治の...仕事...?」
そうだ。
まだ、退治し終わってない仕事があった。
それも、高額の報酬が貰える......
焔の旅 セイ&ライの過去話 たそ @tasodane
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